いろんなことがありすぎて。

 12月7日、ミネソタ晴れ。

 今日も寒いんだけれど、晴れていて気持ちが良かった。ただ、嵐の前の静けさだと思うと恐怖さえ感じる。


 今日は何だかいろんなことがあった。

 まず、朝、いつものようにMのデスクトップPCを使い、データ分析作業をしていた。そしたら昼前に突然、フリーズした。

 強制的に再起動させるとエラーメッセージが出た。

 No boot drive detected.

 いつもの様にIT guyに電話をして状況を伝えたら、今日はすぐに来てくれた。その場では直らなかったので自分のオフィスに持って帰り修理してみると言い残して立ち去って行った。そして1時間後、電話がかかってきた。

 「ハードディスクドライブが壊れていて直りません。新しいハードディスクドライブを今日注文したので3日後ぐらいにはOSを入れた状態で持っていけると思います。ただ、壊れたハードディスクドライブのデータが取り出せるかどうかは分かりません。もし私がやってできない場合は高額の費用を払って専門業者に依頼することになりますが、どうしますか?」

 どうしますかって言われても私個人では判断できないので、とりあえず壊れたハードディスクは破棄せずにとっておいてくれと伝えた。

 困ったもんだ。私は大切なデータはこのPCには入れていなかったので問題ないが、このPCは4人ぐらいが使っているので、彼ら全員と中ボスにすぐにメール連絡し、どのようにするべきと考えるかを聞いた。

 なので今日の午後はデータ分析作業は出来ず、どうしようかと思っていたら、中ボスにPeer Reviewを頼まれた。

 どれどれ、みてやろう、みてやろう。このPeer Reviewって作業はかなり好き。イケテル内容なら勉強にもなるし、そうでなければ容赦なく突っ込みを入れてやればよい。

 タイトルと内容はまさに私たちがやっていることと同じ領域の話なので、読むのに全く困ることは無く、問題点がもしあったとしても全て指摘できる。ガンダムオタクがガンダムオタクの書いたガンダムに関する論文を査読しているようなもの。ちなみにIF5.2の雑誌に投稿されたものである。

 いつもabstractとfigure、tableをざっと眺めてから読み始めるのだが、今日は著者の名前と施設名を見た瞬間、胸騒ぎがした。

 東欧の某国の首都にある某大学からのものだった。そう、東欧の国からのお手紙だ。 なんだか、deja vuを覚えた。以前読んだ某氏のブログの記事と全く同じだったからだ。

 そしてfigureを見ていると、かなり違和感がある。我々が普段、98%ぐらいの結果が出ている値が、40%とか60%しかない。これは一般的な値ではない。どの施設でも90%はまず超える値だ。まあ、実験のやり方によってはこれぐらい低い値が出てもおかしくは無いと思つつ、本文を読み始めた。

 Introduction
 ここを読んでいるだけでも胸が苦しくなってきた。まるで短い総説を読んでいるようだった。大抵ここには今までの研究の内容、問題点、自分たちが立てた仮説など、なぜこの実験を行ったのかを分かりやすく説明する場所だと思うのだけれど。この論文がもしアクセプトされたとして読むのはその道の専門家だ。まるで「釈迦に説法」であった。

 Materials and Methods
 さて、ここを読めば彼らが具体的にどのように研究を行ったかがわかるのでじっくり読みましょう。

 読んでいると、愕然とする記載が目に入ってきた。そこを読んだ瞬間、全てのなぞが解けた。あの不自然なfigureの理由が全て分かった。まるで胸をダガーナイフで一突きされたかのような衝撃と息苦しさを感じた。

 彼らは大きな勘違いをしていたのだ。

 もしもすこしでも私たちに実験計画を相談してくれていたら。いや、我々でなくても同様の研究を行っている施設に相談を入れていれば。この領域には有名人が何人かいるが、その誰か一人にでもその実験計画を相談してくれさえいたならば。そのような勘違いはせずにすんでいたであろうに。

 この勘違いは致命的で、彼らの研究、論文はまったく価値のない研究、論文となってしまった。そして追加実験なんてやるのも不可能なぐらい致命的だった。

 そして彼らは政府から資金援助を受け、5年の歳月を費やしこの研究を行いこの論文に書かれている結論に達したと締めくくっていた・・・・・・・・・・。

 胸が苦しい。私はこのような経験は非常に苦手だ。なぜ、なぜ、なぜ、疑問が無数に浮かんでくる。それに対してひとつずつ答えを自分なりに見つけていくのだが、疑問が多すぎるのと、答えが見つけにくい疑問ばかりが浮かんでくる。

 気がついたら、その国の状況、歴史、そしてその大学のその国における立場を調べていた。なんと200年以上の歴史のある超名門大学で、その国の最高学府だった。

 もしも、今回の論文がお気楽な状況で投稿されていたらなばと思う。ちょっとデータがそろったから投稿してみようか?ってなもんで。

 でもたぶん違うだろう。限られた資金と物資、情報の中、彼らなりに苦労した結果やっと集まったデータなんではないだろうか。

 何に問題があるって、その国の政治に問題があるに決まっている!!!!!!!

 国の歴史および政治次第で研究内容、研究結果は大きく変わってくる。その国の科学技術力はすべて政治しだいだといってもいいだろう。

 普段ならこんな論文は読むのをやめて捨ててしまうのだけれどPeer Reviewを頼まれている以上、Conclusionまで読まないわけにはいかない。

 彼らは勘違いから得られたデータをもとに考察を加え、結論を書いている。いろんなことを考えているとなぜか涙が出そうになってきた。

 内乱、紛争、独立。戦火とともに生きてきた彼らなりの最大限の努力の成果を、私は今日、全否定しなければいけなかった。 

 どうか許してください。



 そしてもう一言。

  ”にっぽんの民主党よ! 日本の科学技術を地に落とすようなまねはするんじゃねえぞ!”






 これ以外にもたくさんの事件が今日ありましたが、書ききれないのでこれにて。