隣国からの訪問者

 9月13日、ミネソタ晴れ

 さて、今日は臨床のお仕事。

 この職場には各国から見学者が訪れてくれるのだが、現在、2週間前ほどから韓国から約1か月の予定で見学に来てくれている年配の医師がいる。

 これまでも韓国から何人か見学に来てくれているのだが、全員が首都ソウルの大学や病院からである。

 今日も朝から彼が見守る中、働いていて、臓器待ちの時間があったので、その間、彼との雑談を楽しんでいた。

 私が蓄積している論文の中に、いくつかソウルの研究者が書いたものがあったので、その著者や施設を知っているかどうかを聞いてみる。すると、よく知っていた。これは外科医で私の先輩で、これは獣医で私の後輩だねって具合で。

 そして、なぜ私どもの施設に見学に来ているのかを聞いてみた。

 ”韓国でも同様の実験や治療を行っているけれど、どうもうまくいかないことが多い。この施設の成績には遠く及んでいないんだよ。だから、その謎を解決できればと思ってアメリカにある施設を何カ所か見学して回っているんだ。それとね、どうやったらこれだけの規模の施設とマンパワーを維持できるのかってことにも興味がある。この仕事はとんでもなくお金がかかるだろ。”

 ってことだそうな。

 そこで私はこう聞く。

 ”韓国での医療費はどうなんです? ちなみにアメリカの医療費は日本のだいたい10倍ですよ。私たちの施設も、十分な医療費をえて、さらに超高額の寄付金で運営されています。これが一つのカギだと思いますよ。”

 彼はこう答える。

 ”そう、韓国の医療費もアメリカと比較すると10分の1ぐらいだね。アメリカの医療費や寄付金は異常に高額だよね。韓国にも国から何億円という補助金を得て研究している人がいるけど・・・・、かつてのファン・ウソクみたいにね・・・、知ってるだろ彼のこと。”

 私  ”やっぱりそうですか。ファン・ウソクさんのことは当然知っていますよ。いろんな意味で超有名人になっちゃいましたからね・・・・。”


 これまで韓国の医師や研究者と話をするときはこのファン・ウソクの名前は絶対に出さないようにしていたが、今日はこの人の話題になってしまった。

 さて、話が盛り上がっていた時に、臓器到着の知らせがあり、仕事を再開。

 そしてクリーンルームで仕事をしながら、彼の質問に答えながら順調に仕事を終えた。

 そして夕方、彼がこういった。

 ”すばらしい!! あの状態の臓器からこれだけ素晴らしい結果を得るなんて。君すごいね!!”

 私 ”いやいや、私の予想以上に結果が良かっただけですよ。この結果にはいろんな要素が複合的に絡んでいて必ずしも私の腕によるものではないんです。”

 そして仕事終了。

 これまで複数の韓国人と話をしてきたが、どの人も非常に熱心でまじめでどちらかというと日本を隣人として親近感を持って接してくる人が多い。


 いま、中国 対 日本、韓国 対 日本の領土問題が過熱しているが、私の周りの小さな世界には悪影響は及ぼしていないようだ。

 そしていまさらながらアメリカの医療費や寄付金の高さに気がつかされる。たとえば日本で5000万円のグラントを得たなんて言うと、結構すごいが、アメリカでは大した額ではなく、数億円以上のグラントを得る人がたくさんいる。日本で働いていたころの同僚でメキシコ人の優秀な研究者がいたが、彼はアメリカに来た途端にうまいこと話をして5億円のグラントを得てしまったぐらいなのだから。


 アメリカには持てる者が、持たざる者から合法的に集金するシステムが複数存在していると思う。サブプライムローンにしてもそうだったし。戦争に関してもそうだ。

 以前、中東某国、アメリカがいちゃもんをつけて侵略しそして先日、撤退を発表した国の出身者である同僚からこう言われたことがある。

 ”知ってますか? 日本はアメリカのATMって言われてますよ。いつでも好きなだけお金が引き出せるって。”

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 アメリカの軍事産業の金儲けの場と化した中東某国と比べれば、まだ・・・・、被害は・・・・・・。

 日本とアメリカの間でのお金のやり取りには、不快感を感じることが多いが、何らかの政治的理由があるのだろうと納得できる。

 しかし、貴重な日本の国土を切り売りするようなまねは絶対にするな!! と声を大きくして日本の政治家の皆さんには言いたいのであった。

 アメリカは美しい国ー、なんて歌がアメリカにはある。私もそう思うことが多い。なぜなのか考えてみるけれど、やはり国土が広大で自然がたくさんの残り、人口密度も少ないからだと思うのだった。

 アメリカで公園に行くと、民家が見えないか、はるかかなたに大きな豪邸が優雅なたたずまいでいることがほとんどである。

 今日偶然だが、日本の”公園”の映像を見た。

 確かに木が生えて土が見える。しかし、四方はフェンスやコンクリートブロックで囲まれ、民家が所狭しと軒を連ねていた・・・・・。



 追記:
 韓国の医療制度が気になったので少し調べてみた。
 韓国にも国民健康保険公団が保険者となった国民皆保険制度が存在している。そして、個々の診療に関する医療費は日本と同額かやや高額で、物価を考慮すると日本の個々の医療費よりも高い。さらに、患者の自己負担は50%もしくは40%と高率。
 医療費の財源構成(2004年)のうち、私費が日本は18.2%に対して韓国47.4%と患者の自己負担が日本よりもはるかに多い。そして、消費支出に占める保険医療支出の割合も韓国が日本を上回っている。
 興味深いのが、韓国では医療費の財源として社会保険料に加えてたばこ税があてられている!!

 世界一の長寿国である日本の医療が、世界的にみて最低水準の医療費で運営されている。なぜそんなことが成り立つのか? それはすべて労働基準法を無視して働き続ける(働かされ続ける?)医療関係者の犠牲によるものに他ならない。
 アメリカの医者に、”私は日本にいたころ、週100時間前後働いていたよ。そして休日も夜間もずーっと待機の状態だった。”というと、必ず決まって”クレージーだ・・・”、と言われるのだった。