カーチェイスの終着点

 10月6日、ミネソタ晴れ

 皆さんお元気ですか? 私ども全員無事です。


 昨夜、身の危険を少なからず感じさせる事件が起きたので報告します。


 深夜、12時過ぎ。

 遠くでポリスカーのサイレンの音が聞こえる。

 かなりの台数のサイレンがいろんな方向から聞こえる。

 その音が、どんどん近づいてくる。

 はっきりと聞こえる。

 もう、我が家のすぐそばに近づいたことが分かり、緊張する。

 衝突音がすぐそこで聞こえる。

 窓の外が、いっせいに明るくなり、ポリスカーの激しく瞬く光でにぎやかになる。

 スキール音が鳴り響く。

 家のすぐ外で、大きな衝撃音が。バンン!!!! っと。

 家は震えない。

 車がすぐそこで何かにぶつかった音のようだ。

 叫び声が聞こえる。

 私はリビングルームにいたのだが、ベッドルームから妻と長女、次女が叫び声をあげながら飛び出してくる。

 さらに、外から大きな声が聞こえる。

 ベッドルームに誰かが侵入したのかと思い、戦闘体勢でベッドルームへ入る。

 ベッドルームは穏やかだったが、外では複数の人物の声が聞こえる。

 ”どこへ逃げたんだ!!!!”と叫んでいる声が聞こえる。

 思わず、床に伏せ、匍蔔前進で窓際まで移動し、恐る恐るブラインドの隙間から外を見る。

 フォードの旧式のエクスプローラー(大型のSUV)が駐車場の車に激突して停止し、そのエクスプローラーの後にポリスカーがぶつかっている・・・・・。その横にはさらに別のポリスカーが停止。その後方の一般道には6台ぐらいのポリスカーが停まっている・・・・・。

 心拍数が跳ね上がるのを感じる。そして目の前の光景が現実なのか?と思えるほど、信じられない光景を目にした。まるで映画のワンシーンのようだ。

 こんなとき、アメリカ人ならこう言うだろう。

 ”オー、ジーザス・クライスト”

 私はこう思った。

 ”あー、神様、仏様”

 私の車の隣の隣にとまっていたMiniの前方が大きく変形し、エクスプローラーがぶつかっていることを視認する。Miniは私の車の方向に大きくずれており、Miniと私の車の間にとまっていた車にぶつかっているように見える。

 俺の赤いやつも壊れたのか?・・・・・・。いや、そんなことはどうでもいい。

 リビングルームに戻る。

 家族はリビングルームの床で静かに震えながら座っている。

 外の状況を家族に説明する。

 再度、ベッドルームから外を見る。

 10人以上の警官が、セミオートマティックのハンドガンを構え、犯人が逃走したと思われる方向に慎重に進んでいく。

 あわてて、再び床に伏せる。

 ここで思った。

 これは危険だ・・・・・・・。

 銃撃戦が始まりそうな不安がよぎる。

 急いでリビングルームに戻り、家族全員で最も安全と思われる、バスルームの床に座ってしばらく様子をみる。

 こんな深夜に起こされたのにもかかわらず、三女は笑顔・・・・・。

 もし、銃撃戦が始まったらどうなるか?

 弾がここまで貫通するだろうか?

 いや、外からは壁が少なくとも2枚あるから大丈夫だろう・・・・・。

 もし、犯人が玄関から押し込んできたら・・・・・。

 急いで、玄関のドアの内側に物を立てかけて開かないようにする。

 バスルームに戻る。

 30分ぐらい経過。

 外は静か。サイレンもとまっている。

 どうするか?

 再び外の様子を窓から確認。

 警官が犯人の車を捜索している。笑い声も聞こえる。

 犯人は逃げたのか? つかまったのか? 分からない・・・・。

 外に出て、警官に聞くか? いや、まだ安全かどうか分からないから外に出るべきではないか・・・・。

 1時間経過。

 外は比較的静かだ。もう眠い、寝よう。

 念のため、ベッドルームではなく、リビングルームの片隅の壁に囲まれたところの床で全員固まって寝た。

 外からはまだ何かをしている音が聞こえる。


 6時過ぎ、起床。

 外をみる。ポリスカーも警官もいない。エクスプローラーもない。

 外に出てみる。

 Miniは前方がぐちゃぐちゃ。その隣の白い車も壊れている。その隣の私の車は無事だった。


 寝不足だが、そのまま出勤。

 同僚に、この話をするとアメリカ人の彼らも非常に驚いていた。そして、私の車はかろうじて無事だったことを聞くと

 ”いいところに車を停めておきましたね・・・・、ラッキーでしたね”って言う。

 いやいや、そんなことはどうでもよくって・・・・。

 印度人の若い研究者の同僚はもっとましな発言。

 ”アルマダさんと御家族が全員無事でよかったです”


 昼になり、妻がアパートのオフィスで職員の女性に聞いた所によると、強盗犯が車で逃走し、カーチェイスになり、このアパートのすぐ隣の道路でポリスカーの挟み撃ちに会い、道路じゃないのに!!! 奇麗な芝生の小高い丘なのに!!! その丘を乗り越え、アパートの駐車場の車に激突して停止。犯人はアパートの中庭に逃走するも逮捕されたとのこと。

 彼女いわく

 ”今日は安心して眠れるわよ。私も昨夜は怖くて全く眠れなかったの”

 ちなみに彼女も、私と同じ建物に住んでいる・・・・・。


 あー、アメリカ。おー、アメリカ。

 普段は非常に平和なこの町。こんなことが起きるとは。

 寿命が縮まった気がする。