医療崩壊と緊急手術

 10月17日、晴れ

 朝、涼しくて気持ちが良い。

 しかし、ね む い ・・・・・。

 昨日、日曜日。夕方、家族揃って三宮周辺をサイクリングしていたらiPhone 4が鳴った。

 病院の当直医からの電話だった・・・。

 他の病院の患者で ”緊急手術が必要だと思うので貴院での手術をお願い出来ないか?” とその病院から搬送の打診があり、私に手術をしてもらえないか? との内容だった。

 ”どうぞ!” と答えたのだが、どこの病院からの依頼なのか聞いて驚いた。

 隣のさらに隣の街の病院だった・・・・・・。

 はあ? あの街にも沢山病院があるだろうに・・・・・。

 え? なんでそんなとこから?????

 まあ、そんな事はどうでも良いわ!!! と考え直し、家族揃って予定を切り上げて帰宅した。


 そして、救急車で搬送されて来た患者は、やはり、緊急手術をしなければ死んでしまう状態だった。

 そして、緊急手術を始めて終わったら日が変わっていた。

 その後も、術後の管理やらなんやかんやで、状態が安定しているのを確認して帰宅したのが丑三つ時。


 そして、今日、月曜日。

 こんな時に限って、朝から執刀の予定が入っているんだよな・・・・・。

 まあ、こんなもんだよ、日本の外科医ってのは・・・。

 今日も良い手術をしました。

 そう、我々は”世界最高の技能を持つ外科医集団”の自負がありますから。

 そして、患者さんとその家族からも謝意をいただき、疲れも吹き飛びましたな。


 さて、なんで昨夜はそんな遠くの街から手術の依頼が? って事で同僚達に聞き込み調査。

 どうやら、その街の救急医療は崩壊しているらしい。

 いや、その街だけではない。以前、大阪の病院からも手術の依頼があったそうな・・・。

 はあ、どうなってんだよ日本。



 さて、なんでこんな事になると思いますか? 皆さん。

 その原因は単純明快。

 診療報酬が少なすぎるからです。

 すなわち、救急を充実させても赤字の原因になるだけなので、地域救急医療を十分にまかなうだけの人員を投入出来ないからです。

 なので、最小限の医者や看護師しか夜間、休日に雇用出来ないんだわ。


 なあ、平和ぼけした諸君。

 そこらへん、よく考えてみてね。



 話は少し変わるけど、先日も記事にしたけれど、高額療養費制度の改正が厚労省によって検討されている。

 この高額療養費制度ってのは平和ぼけした人々にはとてもありがたい制度だろう。

 しかし、その内容は異常としか言いようが無い。

 日本は天然資源に乏しく、産油国のように油を掘るだけでぼろ儲けって国ではない。

 島国日本でこんな制度は成り立つ訳が無い。

 もっとも、海洋に眠る天然資源を某国に強奪されても大して怒らないのが今の日本人、日本政府なんだけどね。


 さて、この高額療養費制度を簡単に説明しておこう。

 まず、高額療養費制度の自己負担の計算方法。
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 例えば70歳未満で”一般”の場合:80,100円+(医療費-267,000円)×1% となる。

 なのでこんな事になる。
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 100万円の医療を受けたのに自己負担は87,430円!!!!!!!!

 アメリカ人は当然びっくり、印度人もびっくりだろう。

 余談だが、日本の医療機関が100万円の報酬を受け取る治療と同じ事をアメリカの医療機関が行った場合、800万円ほど請求するんだけどね・・・。

 そう、日本の医療機関は世界最高の医療を提供しているのにこんなにちょっとしかもらえてないんですよ。



 さらに、高度な医療を受け続けるとこうなる。
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 すごね、日本。


 私は、アメリカで歯が欠けて、親知らずを抜歯し、欠けた歯にクラウンをかぶせた。

 総医療費、3000ドルだった・・・・・・。 

 歯科医療保険を購入していたので自己負担は2割だったが、なんと、"医療保険でカバーされる"年間限度額が1500ドルと決められていて、それを超えた医療費は ”全額自己負担” だった。

 よって、1500ドル × 20% + 1500ドル = 1800ドル の自己負担だった・・・・・。

 そう、アメリカでは高額になれば保険会社は支払ってくれず自腹で払うしか無かった・・・・・。

 一方、日本、高額になればなるほど沢山助けてくれて自腹が減って行く・・・。

 異常だろ・・・。

 クラウンかぶせて自己負担金が1800ドルってアメリカも異常だけど、日本もそれに負けず劣らず異常だよ。


 そして、先日、厚労省が 80,100円+(医療費-267,000円)×1% の80100円をさらに減額し、気が狂ったのか x1% を無くし、さらに、年間自己負担額の限度額を設定しようとしている。


 アメリカでは保険会社が支払う限度額が決まっていて、高額な医療を受けると自腹になる。

 一方、日本ではいくら高度な医療を受けても、年間の自己負担額が決まっているって状態になろうとしている。

 そう! 真逆なのだ!!!

 これぞ、日本の世界最高の医療の大バーゲン。

 大安売り!!!

 笑うしか無い。


 医療をなるべくたくさんの人が受けられるようにするってのは、良い事なんだ って思わない訳ではない。

 しかし、度が過ぎる!!!

 アメリカで暮らしている頃は、なるべく病気にならないように日頃から最大限の努力をしていたし、風邪なんて症状ではなるべく病院に行かないようにしていた。友人はインフルエンザ(疑い)でも病院を受診せず、自宅で安静にしていた。そうしなければ、まじで破産してしまうからね。

 しかし、日本。

 患者の立場で考えると、あまりにも居心地が良すぎる。

 世界最高の医療を数万円で受けられる国。

 万歳! 日本!

 平和ぼけせずにはいられませんな・・・。

 そして、ずいぶん、安く見られたもんだ。

 高度医療、高福祉、低負担・・・。

 愚民のご機嫌を取る為に、自分で自分の首を絞める日本政府。そして、そのしわ寄せを医療現場と労働者達の税金、年金に・・・・・。

 そう、民主党の小宮山さんは診療報酬の増額改定を検討しているらしいね、その一点だけは彼女を支持します。



 以上、時給3000円で同朋の命を救い続ける、日本人外科医のつぶやきでした。



 God helps those who help themselves.

 こんな考えを根強く持つアメリカ人達がさらに逞しく思えてくるのだった。