武人の魂
10月19日、晴れ
外気温は21℃
とても気持ちが良い
仕事を終え、Tシャツ一枚で夜、通りを歩く
頬をなでる風は優しく、温かい
自分が生きている事を感じる瞬間
五感が研ぎ澄まされ、自然、そして街の息吹を感じる
そう、俺たちは生きている
先ほどまでの極限の緊張状態から解き放たれ、やり遂げたことによる満足感が俺の体を包む
今、こうして自分の脚で歩いている
至福の時かもれない
その前まで、私は液晶モニターを凝視していた
この私の手は腹腔鏡用の鉗子を握り、とある癌の手術をしている
極度の緊張状態を生む、その事実
それは私がへまをしたらこの患者の命は近い将来この癌によって失われ、完璧な手術をすればこの癌は完治するという事実
へまをすれば、5年生存率43%
完璧にやり遂げれば、5年生存率100%
そう、俺の腕にかかっている
普段なら何の緊張もせずに完璧にやり遂げる手術
しかし、今は違う
相手は癌だ
私の手に握られた鉗子によって、私が判断を誤り少しでもへまをしてしまったら・・・・・、患者は近い将来
死ぬ
恐怖心に満たされた私の心
しかし、その恐怖心に負ける事は決して無い!
なぜか?
昨日、患者とその家族に誓った
完璧な手術をしてみせると
まかせてくれと
そして、私は自分の腕を信じている
同僚の腕を信じている
俺達ならできると確信している
そして、遥か昔、幼い頃、私の祖先に誓った
私はあなた方、武人の、武士の末裔です
あなた方から受け継いだこの私の心は絶対に折れません
しかし、いつかは折れるかもしれない
それは私が死ぬ時だ
今、こうして輝きを放ち生きていられる事
すべての神に感謝したい