挑戦と向上心

 4月16日、曇り時々雨。

 月曜日。

 当直開けの月曜日。

 夜が開けても、もう当たり前のようにぶっ続けでそのまま夜まで働いている。

 当直開けだからといって早く帰る事も出来ない状況になってしまった・・・。

 このくだらぬ日本の医療行政の犠牲に再びなりつつある。


 先日、参加した日本外科学会定期学術集会で海外から招聘されたドクターの発言が印象深かった。

 ”若い外科医が危険なゾーンで手術をしなければならない状況を与えてはいけない”

 多分、あの会場にいた参加者の9割はこのドクターの発言が理解出来なかったのではないかと思う。

 綱渡りのような危険な手技をさせてはならない、教えてはならないという事なのだが、ただ手術に関する事に当てはまらぬ発言だと思う。


 常日頃、日本の外科医は世界最高だ!と言っているのだが、最近、それは間違いじゃないかと思うようになって来た。


 それはこの年功序列の日本の医療界に置ける固有の問題かもしれない。

 例えば、武道の世界であれば、先輩だろうが後輩だろうが試合になればその経験やセンス、実力をむき出しにして闘い、優劣が決まる。

 そう、本当の実力のぶつかり合いである。

 そして、たとえ先輩に勝利したとしても、後輩は先輩に対する敬意を絶やす事はなく、お互いが切磋琢磨し、そして負けた先輩は心を入れ替え再び修行の日々、精進を続けるのである。


 しかし、この日本の医療の世界は違う。

 年を食っていても、えらそうな態度をしていても手術もへたくそ、診断能力、判断力が劣悪な御仁がいる。

 しかし、問題なのは年功序列が弊害となり、その御仁は自分が劣っている事に気がつかず、または気がついてもそれを口先でごまかせば何とかなってしまうのだ。



 40歳代の先輩に向かって ”へたくそ!!! 恥を知れ!!! 外科医なんてやめちまえ!!!” とは口が裂けても言えませんよね・・・。



 若い頃の私は、そんな先輩に歯に衣着せぬ物言いをして煙たがられていた。

 しかし、今の私は先輩や後輩の批判は極力控えている。それは組織の安定の為である。

 しかし、言わねば分からぬ御仁もいる。

 いや、言っても分からぬかもな。

 そんな御仁は向上心をもたず、努力を怠り、挑戦をしない・・・・・。


 最近、私は学会などに参加し他施設の外科医達との交流を繰り返している。

 そこにいる外科医は、例えば某大学病院で働く超有名な外科医であったりする訳だが、彼らは輝いている。

 テレビにもしょっちゅう出演しているような彼らの手術の腕を実際に見てみると、これぞ日本人外科医!!! と誇らしく思うのだ。そして、私の目指すべき世界を提示してもらっていることを感じるのだった。

 彼らは向上心を持ち、努力を怠らず、挑戦し続け、外に出る事を恐れぬ。

 井の中の蛙ではない。

 自分の実力を第三者にみせ、評価される事を恐れぬ。

 私もそうありたい。


 この歳になって、おっさんになって、50歳ぐらいで引退したいと思うようになっていたが、こうして沢山のトップランナーと接してその考えが変わった。

 やりたい事、やるべき事、成し遂げるべき事。

 それらが眼前に明確な物となって今は見える。

 現実的に考えて、50歳までにそれを達成出来るかどうかは・・・。


 この命には限りがある。

 年功序列の世界で、先輩に遠慮しつつ目的を成し遂げるにはあまりにも短い。

 いかにこの封建的な世界で自らを鍛え、目的を達成するか。

 考えるだけで楽しくなってくるじゃないですか。



 追伸:

 今月からちょっと昇進し、基本給が36万円から37万円になり、1万円あがりました・・・。そんな私は副部長・・・。年功序列万歳・・・。