一網打尽

 4月なんにち???

 えーっと、4月24日。

 まだ火曜日だというのに、今日が何日か分からない・・・。晴れだったのか、雨だったのかも知らない・・・。


 昨日、月曜日。

 予定手術が朝から晩まで入っているのに、緊急手術が3件。


 さて、これまであまり触れていなかった私の上司の外科部長。

 肝の据わった人物である。


 さて、私と部長との会話。

 私 ”あの・・・、部長・・・、予定手術がこれだけ入っているのに緊急手術が必要な患者が3人もいます・・・。”

 部長 ”おう! 一網打尽じゃ!!!”

 私 ”はい! やりましょう!”


 いつも思う。あなたは凄いよ。

 私なんかは3件も緊急手術があるとすこし嫌になるんだけれど、このたった一言で奮い立つのだ。


 世が世なら昨日の会話はこうなっていたんだろう。

 ”一網打尽じゃ! 各々方! 心してかかられよ!!!”

 ”おう!!!”


 こんな武人が上司なので、私が赴任してからの1年間で手術件数が急上昇・・・。

 息つく間も無く働き続け、昨日は気がついたら深夜。妻に、緊急手術があるので帰宅が遅れる旨、電話連絡する事さえも忘れていた。

 iPhoneを確認すると妻からメールが届いていた。送信時刻は昼過ぎになっていた。

 ”長女が39℃の発熱のため学校を早退しました。でも、経口摂取出来ているので心配しないでください。”

 すまん、家族の事をほったらかしで働いていた・・・。

 そして、妻よ。いつも有り難う。君がいてくれるから今の私がいる。


 さて、どうしようか。

 あの激坂を登って帰ろうか・・・。でももう12時を回っている・・・。

 明日も朝から仕事だし・・・。

 妻に電話し、事情を説明して私の ”別荘” である ”病院の仮眠室” に泊まる事にした。

 病院の自販機で買った120円のカップヌードルが”別荘”での晩ご飯。


 そして、今朝、7時に起きてシャワールームで身を清める。でも、予想外の別荘泊であったので・・・、パンツはそのまんま・・・。

 病棟の受け持ち患者を回診し、カンファレンスに出席。そのまま、朝から晩まで手術に明け暮れたのだった。


 さて、”一網打尽” の勢いで私たち外科医が我が身も家族も顧みず手術をしまくった結果、どうなったか?

 多くの患者の命が救われ、その患者の家族の生活が守られたのだった。

 しかし、それだけではなかった。

 手術場や病棟の看護師は疲弊し、ストレスを抱え、過度の労働で麻酔科医は精神に変調を来たし・・・。


 アメリカの医者にくらべたら二束三文の給料で、それ以外になんのインセンティブも無いのに患者の命を救う為に、激務をこなす我々日本の医師。

 ある意味、我々は ”医は仁術” を地でいっているのかもしれないが、その結果は現場の疲弊と荒廃。

 こんな状態で医療を続けなければならない原因は何か?

 それはこの日本のふざけた社会保障制度、激安の診療報酬に他ならない。

 そして、その根源はその社会保障制度に依存しきった国民の意識である。

 いい加減、分かってくれよ。


 しかし、それでも我々、日本人外科医や医療従事者はその身を、その人生を、その家族をサクリファイスしてでも同朋の命を救う為に奮迅する。

 それが亡国へと至らぬうちに、この社会保障制度を正して欲しい。

 そう切に願う。



 我々の犠牲が、亡国へとつながるならば・・・・・・・・・。



 いい加減、気がついてくれ。