緊急手術、そしてツール・ド・フランス

 7月8日、晴れ

 昨夜、行われたツール・ド・フランス Stage 7!!!

 熱かった。

 ゴール手前の激坂で、トレインを引き続けるSkyのクリス・フルーム

 最後にはブラドレー・ウィギンスがフルームに引いてもらってゴールスプリントを決めてステージ優勝をさらうと思われた。

 そして、昨年の勝者、エヴァンスがいくかと思ったがゴールスプリントはフルームがそのまま決めステージ優勝を決めた!!!

 熱いぜ! フルーム!!!

 これぞ炎のヒルクライマー!!!

 そして、我らがファビアン・カンチェラーラマイヨジョーヌを手放した・・・。





 さて、ここまでの解説は・・・、実は先ほどまで観ていた録画映像に基づくものである・・・。

 ああ、是が非でもこの山岳ステージ Stage 7を生放送で観たかった・・・。

 でも、昨夜は出来なかった・・・。

 なぜならば当直だったからだ・・・。

 しかも緊急手術を0時から始め4時まで働いていた・・・。

 飲まず食わずで・・・。

 かなりヤバい状況の患者ではあったが、一気に行った術前検査に基づいて立てたPlan A, B, Cのうち最も侵襲の少ないPlan Aを実施することが出来て、一安心してAM4時に寝た。

 そして、3時間爆睡。

 AM7時、病棟から他科の患者が急変したから診て欲しいという看護師さんからの電話で目が覚めた・・・。

 もう、何も食べていないことなんかどうでも良い。

 目の前で苦しむ患者を助けることでこの頭脳はフル回転。

 枯渇しかけているグルコースがこの脳を限界まで動かす。


 さて、当直の勤務は終了した。

 しかし、帰宅し休養をとることは許されない。

 そして、疲労と睡眠不足で思い通りに動かぬ体を理性と根性で無理矢理動かし、未明に緊急手術を行い救命したはず・・・、の患者を診る為にICUに向かう。

 緊急採血の結果が出ていた。

 ・・・・・、まじで・・・・・・・・・・・。

 予想以上に良い結果だった!!!

 術後間もなく死ぬかもしれぬほど状態は悪かった。術前は著名な炎症で頻脈と血圧低下。尿もほとんど出ない。

 しかし、術後は血圧・脈拍は安定。尿量も少ないながら確保。DICも進行すること無く、血小板数も上昇して来ている!!!

 助かるぞ!!!

 たとえ深夜であれ、我が身は疲れていても、患者の身体所見・検査結果を十分に観察し、真摯に受け止め、迷うこと無く行った緊急手術。

 よかった。

 目の前にいる死が目前に迫り来る患者、そして寄り添う家族。

 彼ら、彼女達に、我々外科医が!麻酔科医が!オペ看が! 最善を尽くし、明るい未来を取り戻す。

 これが医療の現場だ!!!

 そして、一安心して昼ご飯を食べに帰宅したのだった。

 ああ、腹減った。と、帰宅を決めた瞬間に、何も食べていなかったことを思い出した。



 私はいつもありのまま正直に患者とその家族に病状を伝える。

 時として、それはまるで死亡宣告のごとく辛く厳しい内容である。

 自分はもう死ぬかもしれぬ、大切な家族が死ぬかもしれぬという恐怖を感じる病状説明。

 しかし、それは決して大げさな内容では無く、事実である。

 私は、生温い甘ったれたような内容の説明はしない。

 外科医として十分な覚悟を常に私はしている。そして、患者やその家族にも理解と覚悟を常に求める。

 そして、このような厳しい状況ではあるが、我々外科医は全身全霊をもって最善を尽くし、この消えようとしている命を救うと患者と家族に誓い手術を行う。

 ああ、これほどまでに死を身近に感じる仕事。

 外科医。

 この頭脳、この腕が患者の命を左右する仕事。

 この体は常に良く動いてくれる。

 だって、自転車馬鹿だからね。空手家だからね。


 さて、この患者の診察、検査、手術に要した時間は約4時間。

 ぼけっとしてたら死んでしまう命を、深夜に的確に診察・診断し、緊急手術を行い救命に至った4時間。

 世界最高の外科医の一人が得た報酬は約1万2000円である・・・。

 そう、1万2000円で命を救う手術を行ったのである。

 知り合いのアメリカ人外科医に説明したら多分こう言うだろう。

 Totally stupid!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



 なにが言いたいかお分かりだろうか?