戦いの始まり

 3月11日、ミネソタ

 今日も朝から実験。私のオフィスはミネアポリスにあり、朝、ミネアポリスで集合したのち、大学の車に乗り込んで、セントポールで実験を行った後、ミネアポリスに戻り実験を続けるはずだった。しかし、諸事情にて男3人がミネアポリスに残って仕事を続けることとなった。

 PM2時になってもミネアポリスに帰れそうにない。しかもあまりにも科学的ではない判断のためであったので私よりも短気で口達者なインド人の若い研究者が激怒して、中ボスに苦情の電話をかけた。

 朝7時から働き、空腹に耐えるのも限界が近づく。みな、昼食はミネアポリスのオフィスにおいてきている。そこで、男3人、ミネアポリスの職場の近くのサブウェイにサブを食べに行った。雨の中歩いて。

 そしてやっとミネアポリスに戻る。


 今週から、私の仮説に基づき実験のとある過程にわずかな変更を加えて、私なりにはいい手ごたえを感じていた。

 しかし、今日、長年この職場で働いているテクニシャンの一人が、猛反発した。私のくわえた変更が受け入れられないというのだ。その理由を早口の英語でまくしたてる。確かに彼の言うことも十分に理解できる。しかし、私の主張と相容れない内容ではなく、むしろお互いの主張をうまく調和させることが最高に良い結果を生むと私は考えた。

 しかし、職場のスタッフの雰囲気がむこう寄りになっているのは明らかだった。

 私のくわえた変更を彼が受け入れられない理由は、私の仮説が十分に理解できないからだ。ならばどうするか。目に見える形で実証するしかない。

 そう考えた私は、日も暮れた夕方、ラボに残り、使われることなく破棄される運命にあった大動物の臓器を用いて一人実験を始めた。

 すると、中ボスがやってきた。そして興味深そうに私のしていることを観察している。そして私は何をしているか、何を実証したいかを仮説を交えて詳しく説明した。

 そして、中ボスが言った。

 ”非常に興味深い。そして、私もあなたと同じ考えだ。大いに賛成だ。ぜひこの実験の結果を大ボスに伝えてくれ”

 普段はいろいろと私を怒らせることの多い中ボスだが、科学者としてはなかなか理解力のある人ではないか。と、今日は思った。

 そんなこんなで、一日が長くそしてとても短い。家に帰ってからも自分の仮説のことが頭から離れず、文献を読み漁っている。

 自分の仮説は正しいのか?他の施設の研究者はどのように考えているのか?解剖学的に見てどうなのか?

 いろんな考えが頭の中を駆け巡り、疲れているはずなのに頭が冴えて眠くない・・・・・・・。

 てなわけで、三女の面倒を見ながら少々夜更かしをしている。