へこむアメリカ人外科医
4月27日、ミネソタ晴れ
今日もいい天気だった。
今週は自分の実験ではなく、よその部署の実験を手伝っている。
これは大動物を使った実験なのだが外科的手技が必要とされるので手伝いを依頼されるのだ。
半年ほど前より、その部署のアメリカ人外科医と一緒にこれをやっている。これまで私がほとんどしてあげていたのだが、最近自分の実験で忙しく、ほんとうは手伝いをするよりも自分のデータをまとめたり、自分のためにこの時間を使いたい気分になってきたので、出来れば手伝いをしたくない。そんな今日この頃。
今日はあえて私がすべてをしてしまうことはせず、あくまでもこのアメリカ人外科医の助手をするというスタンスで実験を始めた。
案の定、失敗の連続。そのたびに私が代わりに手をだし、実験が進められるように手助けしないといけなかった。
これまでは私が当たり前のようにやって見せていたことが、自分ではまともにできないことに彼は今日、気がついた。
今まで私に向かって散々生意気な口をきいてきた彼だったが、今日はへこみ、素直な表情でこう言った。
My skill is not good.
そうか、やっと気がついたか・・・・・・・。
これまで彼が術者としてこの作業をするときも彼がやりやすいように私が手助けしてきたことにやっと気がついたか。
(外科医の世界ではこのことを ”ここ掘れワンワン状態” と言う。どこを掘ればいいのか自分ではわからないので掘る場所を教えてもらって掘っている状態。)
(外科医の世界ではこのことを ”ここ掘れワンワン状態” と言う。どこを掘ればいいのか自分ではわからないので掘る場所を教えてもらって掘っている状態。)
これは若い外科医にはよくあることだ。(彼はそれほど若くないが・・・・・)
私も外科医になって2年目の時、自分でかなり手術ができると思い込んでいた時期があった。
そしてそれまで散々私をしごき、いじめ、たたき上げてくれた外科医の大先輩とそのころは師弟のような関係になっていたので、いろいろと正直に相談事をするようになっていた。
ある日、その大先輩に ”OO先生を助手にして手術をすると、先生が助手をしてくださる時よりもはるかに時間がかかるし、手術中にイライラするのですが” と聞いたことがあった。
するとこう言われた。
”それは君がまだ未熟だからだよ”
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
”誰が助手をしてくれようが、君がその助手に適切な指示をして自分のしたいような手術ができるようにならないと一人前じゃない”
・・・・・・・・・・・・・・・・、そ、ん、な、上級医師に指図できるわけないじゃないですか・・・・・、なんて言ってみたが、確かにまだ自分が未熟だからだ・・・・・・・、と心臓を一突きされたような感覚を覚えた事を記憶している。
それにしても、日本人ってのはなんでも直球でものを言うよな・・・・・・、と思う。
今日にしても、このアメリカ人外科医に ”君はまだまだ未熟だから私の手技をよく見てなさい” なんてことは口が裂けても言えない。アメリカ人ってのは意外かもしれないけれど、自分の伝えたいことをかなり遠まわしに発言する。
なので、今日はあえて何も口にせず、あえて積極的に手を出さなかった。
これが彼には強烈なメッセージとして伝わったのだった。
アメリカ人外科医の教育なんて私のappointment letterには書いてなかったんだけどな・・・・・・・・・・。