歯医者通いの日々

 7月1日、ミネソタ晴れ

 今日も早朝から仕事。ただ、昼前に仕事を切り上げて歯医者に行ってきた。

 Build upと言ってクラウンをかぶせるための土台を作る日だった。そのはずだった。

 しかし、再度レントゲン写真を撮り、それを見た歯科医がこういった。

 wisdom toothを抜かないといけない、と。

 wisdom toothすなわち、親知らずである。この親知らずが壊れた歯を圧迫しているし、歯の欠損部に極めて位置が近いのでこれを抜かなければ適切なクラウンを被せることができないと。

 そんなわけで、再び予約を取り直し後日、外科医の診察を受けることになった。

 まさかアメリカで歯でこんなに悩まされるとは・・・・・・・。しかも抜歯か・・・・・・。

 そんな気分で帰宅した。

 妻に抜歯しないといけないんだってよと言うと、”抜かないとだめだよー、それに親知らずを抜いたらこれから歯並びもよくなると思うよ” という。

 そうか、やっぱり抜いたほうがいいか・・・・・、でもやなんだよな・・・・・・、と臆病風に吹かれていると晩御飯を食べているときに妻が子供たちに話をし始めた。

 ”お父さんは今は優しいけどね、昔はとっても怖かったんだよ”

 おいおい、何を言い出す。昔っからやさしいだろう。ただその後の妻の昔話を聞いてすっかり忘れていたある出来事のことを思い出した。それを以下に書く。


 ある日、彼女とドライブをしていた。ちなみに”彼女”とはのちに妻となる女性である。当時はまだ学生だった。そう、はるか昔の話。そして私が乗っていた車はRNN14である。
 交差点で車を停めると、それまで私の前を走っていた車が不自然な動きをして私の横に停車した。そして運転手が下りてきて ”何あおっとるんじゃ、こら!!” と言う。私も車を降りるとその男性が私の胸ぐらをつかみさらに苦情を言う。私は ”何を言うとんなら!ボケ!” と言って、胸ぐらをつかみ返した(らしい)。そして ”ごちゃごちゃ因縁つけるんやったら、やったるぞ!こりゃ!” と言った(らしい)。するとその男性は ”もうええわ・・・・” と言って車に乗り込み立ち去って行った。


 すっかり忘れていたことだった。学生時代、これに類似したことが結構あったのでいちいち覚えていないんだよ。

 当時は、空手道部員。世の中で一番怖いのは部活の先輩だった。そしてそれ以外の一般の人とちょっとやらかした後は、”OO先輩より弱かったなー” なんて言っていた。当然、臆病風に吹かれて逃げるなんてありえなかったし、売られた喧嘩は買うのが礼儀だと思っていたころだった。10人以上の相手をたった一人で袋にしてしまったという伝説を持つ大先輩もいた。
 ついでに言うと、当時は部活での練習以外に近くの空手道場に行って稽古をつけてもらっていた。そこの館長がいつも稽古の最後にこういうんだ。”一発殴られても我慢しろ、二発殴られたらやってしまえ” って。誰に言っていたかと言うと、小学生や中学生といった幼い門下生にだよ。だからって訳でもないけれど、大学生だった私もこの館長の教えを守っていた。

 社会人になってからはこんなことはなかったと思い込んでいたが、よく思い出してみるとなんどか同じようなことがあった。

 ある日、とある病院で深夜に当直をしていると、急患が来たと言って呼ばれたのでみに行った。するとその患者が大きな声で ”OO(看護婦)をくびにしろ!!!” と怒鳴っていた。どうも話を聞くとその看護婦さんの電話での対応が気に入らなかったらしい。何とかなだめて診察しようとしたが、一向にその患者がおとなしくする気配はなく、”くびにしろ!、やめさせろ!” と言い続ける。なので私も”堪忍袋の緒が切れましたわ”状態になり、”ごちゃごちゃいうなや。あんたのやってることは強要罪っていう立派な犯罪なんだよ。それにな、あんたいったい何しにここに来た?、俺に診てもらうために来たんだろうが! それができないならとっとと帰れや。それとOOさんに謝れや。それとも警察を呼んでしょっ引いてもらったほうがいいかい” と言った。するとその男性はその看護婦さんに謝罪し、看護婦さんも私も悪かったわと謝罪した。(ここで看護婦さんも謝るってのがいかにも日本だよなと思う、アメリカだったら絶対に謝らない) 実は、この男性はある鎮痛薬の中毒(私たちがアタ中と言っている鎮痛薬依存症)だったんだ。その鎮痛薬を打ってもらうためにいろいろな病院で暴れていたんだよ。それ以降、この人がこの病院にて暴れたという話は聞かなかった。

 話はそれるが、病院に来る患者の質はその病院の院長なり、事務長の人柄、対応で大きく左右される。さきほど書いた病院の院長は何か問題があるとどちらかと言うと下手に出て問題を解決していた。

 それとは対照的に、非常に患者の質が良い病院があった。その病院の名誉院長とお昼ご飯を一緒に食べていると院内PHSがなり、名誉院長が話をしていた。どうも患者の家族から脅迫電話がかかってきたらしい。その名誉院長は ”そうですか。その電話はちゃんと録音しましたか? そうですか。ならば、すぐに警察に通報して録音データを証拠として提出しなさい。わかりましたか? よろしい。” と言って電話を切った・・・・・・・。彼はその地域では名士で政界にも強いつながりがあり、私たちの想像だがおそらくそっちにも顔が効くのではないかと思う。

 どれも今は昔の話。


 さて、話をもどそう。後日、その予約を取った外科医と話をして親知らずをどうするか話をする予定。プロの言う事には従おうと思う。当然、納得がいかなければ断るけどね。