埋まらない溝

 7月14日、ミネソタ晴れ

 今日は朝からデスクワーク。

 あまりにも沢山することがあるのだが、やれることから次々と済ませていく。

 そして隣のラボの研究者に聞きたいことがあったので昼からは彼といろいろ話し込んでいた。

 それにしてもアメリカ人研究者ってのはおたくが多い。本当によく知っているし、実際自分で実験しデータをまとめているので、詳細なデータをもとに説明してくれるので非常に助かる。かなり長話をしたが、それでもまだ聞きたいことがたくさんあったので、”まだたくさん話をしたいことがあるんだ、また、聞きに来るからよろしく” というと、”もちろん、いつでも大歓迎だぜ!!!” と奇抜なヘアスタイルをしている彼は笑顔で答えてくれた。

 そんなこんなで充実した、一日が終わろうとしていた。そう、帰宅するために準備をしていたら中ボスから電話がかかってきた。

 ”5分だけでいいから話がしたいんだ。時間あるかい?”

 なんかいい話かいな?と思いながら彼のオフィスに行った。そう、いい話なわけがない。中ボスと話を二人きりでするときは90%以上の確率で嫌な話なんだ。

 ちょっとしたボヤキというか、よくわかったことと言うか。それをこれから書こうと思う。

 今、同僚に印度人が二人いて、中ボスも印度人。

 そのうち、若い印度人研究者に、こう頼まれた、”OOさんに、あなたのデータを送りたいのでもらえませんか?”

 私はこう断った。 ”その人とは明日会って直接話をする予定だろ。だから私がその人に直接私のデータを見せるよ。”

 どうも、この私の対応が気に入らなかったらしく、中ボス(印度人)に彼(印度人)はこう言いに行った。

 ”アルマダさんは、私にはデータを見せたくないそうです。何か秘密があるようです。頭にきました。”

 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・はぁぁぁ?

 そして夕方になり、中ボスが私を呼びつけたわけだ。

 開口一番、中ボスはこう言った。”どうして私のスタッフをスポイルするんだ。何か秘密があるのか?そんなにこの仕事に興味がないなら休暇でもとってくれ”

 もう、話にならない。

 まず、”スポイルなんかしていない。どうしてそう受け取ったのか理解に苦しむ。それに秘密なんか何もない、彼が欲しいといったデータは先日の会議の時に全員に印刷したものを渡しただろう。なのになんで秘密があるのかなんて聞くだ。” と説明するも聞く耳を持たない。

 ”とにかく、君はスポイルしたんだ。これは事実だ”

 ・・・・・・・・、はあ、なんでそうなるんだろう。

 次に、どうして ”この仕事に興味がない、なんてことになるんだ。連日私は実験をしてデータをまとめて、大ボスの教授(ドイツ人)と長い時間をかけて話し合っているのに” と言うと。

 ”とにかく、興味がないなら休暇を取って休んでくれ”

 ・・・・・・・・・、もう話にならない。

 さすがに頭に来たのでそのすでに帰ってしまった若い印度人に電話をかけて、実際のところどう思っているのかを聞いた。私も因縁をつけられて黙っているわけにはいかない。

 実のところ、彼はそれほど気にはしておらず、ただむしゃくしゃしたから中ボスに苦情を言いに行っただけだった。

 それを確認して私は中ボスの印度人にこう言った。

 ”あなたはこの問題を彼から聞いて、今何をしようとしているんだ。問題を捻じ曲げてさらに悪くしようとしているだけじゃないか。それとも、因縁をつけて私をやめさせたいのか!!!”

 そしてさらに話はややこしく平行線をたどり、ついに私も堪忍袋の緒が切れて ”あなたにとって嘘をつくことはいいことなのか?悪いことなのか?” と聞いた。

 しばらく、返答に悩んだ末、”嘘をつくことは悪いことだと思う。だけど私は嘘をついているとは決して思わないし、もしそれが嘘だとして、私が言ったことで君たちが何か迷惑したか?してないと思う。だったら、いいじゃないか。”

 でました!印度人的思考。自分の為なら嘘をついたってそれは嘘ではないんだ。実のところ私たちは大いに迷惑している。ときどき、アメリカ人研究者たちが私のところに愚痴を言いに来ているんだよ・・・・・・。嘘をついたら罰が当たる、嘘つきは泥棒のはじまり、なんて考えは印度人には理解できないことなんだろう。

 私はもうあきらめた。

 ”私はアメリカ人とはこんな揉め事を経験したことはない。印度人の君たちだけだよ。もうね、あなたとの間には深ーい溝があって決してお互いには理解できないんだよ。文化の違いなんだろう。だから、この会話は時間の無駄だよ。” と言った。

 ちなみに、私たちが仕事で使う最も重要な試薬は、A,B,C社の製品があり、いろいろ検討した結果、大ボスやその他の大ボス寄りの研究者たちは確かな分析に基づいてA社の製品を使おうとしている。しかし、印度人の中ボスはB社の製品にこだわり続け、あーでもない、こーでもないと、データ分析を提示することなく、ただただしゃべり続けて皆を説得しようとしている。
 なぜ、中ボスはB社にこだわるか。その理由を皆知っている。中ボスはB社と懇意にしており、B社のホームページには中ボスの名前がでているんだ。そう、B社を利用して自分の名前を世界に売っていくという算段があるんだ。だから、不都合なデータのまとめもせずに、ただただしゃべり続ける、嘘八百を。そんな人なんだ。ちなみに、冒頭の電話で5分と言っていたが、実際65分も話をしていた。

 もうめちゃくちゃ。やってられない。

 でも、自分のするべきことやりたいことをしていこうと思うんだ。さいわい、大ボスの教授は私を高く評価して敬意をもって接してくれているし、アメリカ人の同僚たちとは良好な関係が築けているのだから。

 大ボスに評価してもらえない印度人勢の嫉妬なんだろうかな。

 そして、中ボスとの会話の最後に

 ”先日あなたが見せて欲しい、何か助言ができると思うと言っていたデータを送ったが、どう思うんだい?” と聞いた。

 すると、”とても素晴らしいデータ分析だと思う。これからも続けて欲しい。”

 あっそ、それだけか。"Shame on you! Go to hell!"と心の中で叫んでいた。

 さてこんな一件がありまして、今、読んでいるのがこちら。


 まあ、何事も前向きに。