脳死ドナーと秋の空
9月29日、ミネソタ晴れ
今週は実験の予定もなかったはずで、のんびりとデスクワークに励む予定だったが。
日本では脳死ドナーの臓器は移植に用いるかどうかであって研究には用いていないが、アメリカでは脳死ドナーもしくは遺族から二通りのインフォームドコンセントを得ている。一つは臨床の治療、いわゆる移植医療に用いることへの同意、もう一つは研究目的で用いることへの同意。
時には、両方、時には移植用の同意のみの場合がある。
移植医療は、そもそも研究に支えられて発展してきており、移植医療が非常に盛んなアメリカは、臨床の移植医療のみならず、それを支える研究目的での臓器の利用も盛んなのだ。
そんなわけで研究と臨床の両方にかかわっていると、突然の仕事が発生して、時として予定していたことが全くできなくなる状況が訪れる。それが今週だったってだけなんだけどね。
最近、私がその臓器を触る前になると、同僚がこう大きな声で私に言う。
Time to hero up!!!
直訳すると、英雄のお出ましの時間だ!! なんだけど。
次女が好きだったアニメーションでMarvelのThe Super Hero Squadってのがあって、その主題歌でこの言葉が出て来て、次女が大声で、タイム トゥ ヒーロー アップ!!って歌うって話を同僚としたことがあった。それ以降、そういわれるようになってしまった。
ちなみに次女はこのテーマソングの最後に出てくる悪役のセリフ、I hate those squaddies! の物まねが好きです。
私はいつも、移植に携わるときは、脳死ドナーとなった人と遺族の気持ちをおもんばかり、両手を合わせてから臓器を触るようにしている。
でも、そんなとき、アメリカ人の同僚は私を和ませるためか、楽しませるためか
Time to hero up!!! って言うんだ。
おいおい・・・・、って毎回思うけれど、まあ、悪い気はしない。
これがアメリカンのノリってやつです。
そして終始陽気なアメリカン達と楽しく仕事を終えて夕方帰宅。ちなみに、今日の深夜からもう一つ、臓器移植の仕事が入っているけれど、それは別部隊が対応してくれるので、安心して帰宅した。その別部隊の面々は今日の昼間は自宅で休んで深夜に起きて仕事に行くわけだ。
家に帰る。
長女は同じアパートに住む仲の良い子供たちとお外で遊ぶ。
そして、私は次女と一緒に、夕日がまぶしいミネソタの秋の空の下、散歩に出かけた。
子供が3人いると、誰かが私をかまってくれるのでうれしいです。
近所の歩道。
落ち葉が歩道を覆い尽くしていた。
落ち葉が歩道を覆い尽くしていた。
次女が撮影。
きれいな紅葉。写真はブレブレ。
きれいな紅葉。写真はブレブレ。
次女が拾い集めた落ち葉。
これはこの後、自宅に持ち帰られ、食卓に飾られた。
これはこの後、自宅に持ち帰られ、食卓に飾られた。
そして、歩いているとリスの死体が・・・・・。次女はかなりの衝撃を受ける・・・・。
そして、こちら。木を登るまだ生きているリス。
口に木の実をくわえている。
口に木の実をくわえている。
アパートの庭を歩くカモ。
池をおよぐカモ。
もうじきこの池も凍る。
もうじきこの池も凍る。
動物はいつか必ず死ぬ。植物もいつか必ず枯れる。ヒトも動物であり、必ずいつかは死ぬ。これは自然の摂理でありヒトとして生まれた以上、その命の火が消える時が必ず来る。しかし、その自然の摂理に抗い、何とか病を治し、怪我を治し、命を延ばしとあがき続けるのが私たち外科医であり、研究者であるのだ。
そんなことを愛娘の笑顔を見ながら考えるのだった。