緊急手術

 8月17日、晴れ

 今日はちょっと涼しかった。

 さて、今週も連夜、緊急手術が続く。昨日も、今日も。

 我々外科医は、予定手術(定期手術)以外に緊急手術も行う。

 予定手術は、十分な精査を行い、同僚とのカンファレンスを行い術式を十分に検討してから行われる。

 しかし、緊急手術は違う。

 十分な精査を出来ぬまま手術を行わなければならない事が時にある。

 そして、開腹して初めて分かる事もある。

 苦境に立たされるときもある。

 目の前に横たわっているのは、私に命を預けてくれた大切な人である。

 ヒトではない人間である。

 無事に手術を終える事を祈り待つその人の家族がいる。

 死なすわけにはいかない。

 なんとかしなければならない。

 綱渡りのような手技を繰り返さなければならないときがある。

 今日も、先輩外科医と若き外科医を助手に手術をしていたが・・・。

 若き外科医に、”こんなやり方まねするなよ” というと。

 ”まだ私には無理ですよ! 出来ませんよ! 怖くて!”

 そりゃそうだろう。

 でもね、やらなきゃならんのだよ! やらなきゃ!

 ビビっていたら、手術は終わらない。いたずらに時間だけが過ぎて行くだけなんだよ!

 外科医に必要なのは、”度胸” と ”臆病さ” である。

 そのバランスが非常に大切。

 度胸だけでむちゃくちゃな手術をしてはならない。

 臆病で、腰が引けていたら良い手術なんか出来ない。


 非常に危険な状態の人の手術。

 怖いわけが無い。

 なんつったって、私が何をするかでその人が死ぬか生きるかが決まる。

 時には最善を尽くしても救えぬ命がある。

 今日も戦いだった。

 そして無事に手術が終わって、研修医に聞かれた。

 ”先生には恐怖心ってあるんですか?”

 ”ないね、手術しているときにはね。怖いって思ったら負けだろ。今日みたいな手術って、ドツキ合いの喧嘩みたいなもんだろ。弱気になってビビったら負けだよ。空手の試合だってそうだろ。どつき合いをしながら負ける事なんて考えない。どうやったら勝てるかって常に考えているだろ。それと一緒だよ。でなきゃ、患者が死んでしまうだろ。勝つ為に全力を注ぐ、そこに恐怖心は無い。”


 でもね、怖いって思う瞬間はある。そう思った瞬間、やり方を変える。私が恐怖心を感じる瞬間、それはあまりにも綱渡り的すぎてヤバすぎる手技だと自分で思った瞬間である。勝つ為にはこのやり方ではだめだと思った瞬間である。

 そう、常に勝つ事を考えている。どんなに苦境が続こうが、常に勝つ為にはどうしたら良いかを考えている。決して心は折れない。だって、折れたら目の前の命が失われるわけだよ。

 ここらへんの、闘争心、勇気、度胸、理性、根性、そして慎重さは幼い頃から父母から受けた教育と空手道部時代に叩き込まれた押忍の精神が元になっていると思う。


 さて、そろそろ寝よう。

 他の緊急手術が入らなければ、朝まで眠れるだろう。

 Have a good night!


 あ!!!!!!!! 忘れてた!!!!! 朝顔に水をあげなきゃ!!!