救急医療、そして医療全体の崩壊を感じる

 1月27日、晴れ

 やっと金曜日だ・・・。

 今週は当直業務もあり、手術も多かった。

 やりきった達成感とやり場の無い怒りを感じた週だった。


 当直をしていても軽症患者ばかりしかこない。

 ”1週間前から症状があってこれまで病院には行ってないのだけれど見て欲しい” など、なぜこんな深夜に救急外来を受診しなければならないのか???と言いたくなってしまうような患者ばかりだった。

 救急車も多数受け入れたが、入院や手術が必要な患者は皆無だった・・・。

 救急車=無料タクシー

 救急外来=コンビニ である


 日本の救急車は無料。

 救急隊員の質は世界的に見ても非常に優れており、その装備も最新鋭のambulance car

 その利用料金が無料・・・。

 そして、救急外来を気軽に利用しても支払いは数千円程度にしかならない。

 特殊な人なんか、救急外来を受診しても無料である。

 あほらしい。

 救急隊員も”こんな軽症患者を連れて来て申し訳ありません。でも、これが義務なんです。”って表情の事が多い。


 そんな軽症患者の相手をし続けて一睡も出来ぬ夜。

 ”当直”はほとんど業務をする必要のない状態(常態としてほとんど労働する必要のない勤務)と定義されているにもかかわらず、我々は労働基準法違反の状態で超低賃金で酷使されている。


 さて、ここで我々日本の外科医はどんな生活を送っているかを紹介しよう。

 朝、7時過ぎに出勤し入院患者の状態を確認する為に病棟回診を行い、看護記録を確認し、カルテ記載を行う。

 8時から外科医全員で集まって術前・術後カンファレンスを行う。

 8時30分から通常業務を行う。

 ちなみに、7時過ぎから8時30分までの時間外労働の手当を申請している外科医は誰もいない。そう、ただ働き。

 9時、手術が始まる。

 数件の手術をこなす合間に時間を見つけて昼食を胃袋に叩き込む。そう、家畜のように餌をむさぼるわけだ。

 そして休む間もなく、夜まで手術を続ける。

 ここまでもかなりの問題を含んだ勤務状況だと思う。

 当直ではなかった場合、深夜だろうが入院患者の状態を見て回り、看護師さんに患者の経過を聞いてカルテ記載を行い、各種指示を出して帰宅する。

 しかし、当直だったら・・・。

 そのまま当直業務に突入し、ふざけた動機で気軽に受診する多数の軽症患者の相手を不眠不休で朝まで行い、そして一睡もせず、朝からの予定手術の執刀を行う訳だ。


 想像して欲しい。

 夜間救急外来を受診した時に診察してくれた外科医はすでに十数時間勤務をぶっ続けで行っており、夜が開けてもそのまま通常業務に従事しているってことを。

 あなたもしくはあなたの家族の手術の執刀医は当直開けで一睡もせずにあなたもしくはあなたの家族の手術を執刀しているってことを。

 徹夜で働き、気合いと根性と患者とその家族を思う気持ちに支えられ、過労死覚悟で外科医達は働いている事を。

 あなたが気軽に深夜に救急外来を受診した結果、外科医は過労状態に陥り翌日の手術でミスを犯すかもしれない事を。

 あなたのコンビニ受診が外科医を殺すかもしれない事を。




 え? そんな気軽な気持ちで救急外来を受診してないって??? 救急車を呼んでいないって???

 だったら考えてみて欲しい。

 もしも、救急車の利用料が10万円、救急外来の受診料が20万円だったらあなたはそうしたのか???

 救急車呼んだか??? 救急外来を受診したか???


 しないだろ!!!!!


 日本医師会は患者の自己負担増が”受診抑制”を引き起こすから自己負担を増額するべきではないと主張する。

 ふざけるんじゃない!!!

 受診抑制せずにして日本の救急医療、そして医療そのもの、社会保障制度に未来は無い!!!

 いいかげん、俺たち勤務医に甘えるのをやめてもらいたい!!!

 安すぎるんだよ診療報酬が! 患者の自己負担が!


 当然、夜間休日の救急外来を受診する患者の中には緊急手術や緊急入院しなければ死んでしまう人が少数ではあるが含まれている。

 自分や家族がそうだと思うのなら、大金を払って自己破産する危険を冒してでも救急車を呼び、救急外来を受診してもらいたい物だ。

 それだけの覚悟と責任を持って欲しい。

 そうでなければやっぱり崩壊するよ、日本の救急医療は。



 さて、徹夜明けでの執刀ってのは昔っから何度もこなして来た。

 こんな時でも、私の脳は冴え渡り、手は動き、良い手術が出来るんだな。

 やっぱり、俺は”手術馬鹿”だわ。

 ああ、どんどんいろんな馬鹿になっていく。

 でもな、それ(この労働状態)が良い事だとは思えないんだよ。