なあどう思うよ

 9月4日、晴れ

 ずいぶん涼しくなって来た。

 但し、夜間早朝の話だが。




 なあ。

 どう思うよ?





 うちの病院は研修医の先生からも人気が高く、毎年、多数の応募者の中から選ばれし優秀な人材が集う。

 そして、ほぼ常に研修医の誰かが外科で研修してくれている。


 そんな若い医者に私の手術の第2助手に入ってもらう事があるわけだが、手術が終わってから必ずこう聞く。


 なあ、どう思うよ。俺の手術。正直に聞かせてくれよ。


 これまでの研修医の感想をいくつかここに記載する。

 ”速いです。なんだか、違います。”

 ”美しいです。まだ素人なんで良くわかりませんが、美しいって感じがします。”

 ”凄いですねー!!! 解剖が良くわかるっていうか。よく見えます! 教科書みたいです!”

 ”血が出ないですね。”

 ”1.5倍ぐらい速いんとちゃいますか?”


 そして、若き麻酔科の先生方の感想。

 ”え! もう閉創ですか! やばい、麻酔覚まさなきゃ・・・”

 ”いつもの事ですが、バイタル安定してますよ。”

 ”いやー、sepsisで(麻酔)導入時はヤバかったですけど、術中はずーっと安定してましたよ。”


 まあ、こんな感じの感想をいつも言ってくれるわけなんだけど、俺の心はいつも悲しみで満ちている。

 なぜなら。まだまだ、負けているからだ。辿り着いていないからだ。

 これまで沢山の先輩外科医、同期の外科医、後輩外科医達と仕事をして来て、凄い人に何人か出会っている。

 この人は鬼か? 悪魔か? 神か? って感じるぐらい凄い外科医達がこれまで数人いた。

 先輩外科医の中だけじゃない。

 正直に言うと、一つ下の外科医にも、”こいつ俺よりうまいかもしれん・・・” と思わせる外科医がいた・・・。

 そんな外科医達の手術が脳裏に焼き付いて消える事がない。

 この年になっても、あの手術、あの手術、あの手術・・・、あの手術を俺は超える事が出来ていない!!!

 いくらほめられ、おだてられても、俺の心は氷のように冷たいままだ・・・。

 舞い上がりようもない・・・。

 だって、理想にはまだまだほど遠いから。

 悲しみと闘志が混在する心。そして、それは決してぶれる事はなく、静かである。


 いつか俺も、あの領域に入る事が出来るのだろうか。

 もしかしたら無理かもしれない・・・。

 しかし、丁寧に確実にこの水のような心で日々手術を行っている。

 そんな手術がもたらす結果は、確実な癌の切除、そして極めて低い術後合併症発生率である。


 それにしても思う。

 俺は良き先輩外科医、同期、後輩外科医達に恵まれたなと。