インオペ

 10月30日、晴れ

 今朝(外気温15℃)は肌寒かった。

 夏仕様のジテ通スタイルではちと寒い。

 特に激坂を60km/hで下る時は、”さ・む・い・・・・・” と思った。

 一方で、帰りはちょうど良い。

 平坦路を走って体を温め、そして筋肉がほぐれたところで激坂ヒルクライム

 うーん、絶好調。


 さて、タイトルの件。

 そう、”インオペ”

 そう、inoperable である。

 ”手術不能” って意味です・・・。

 我々外科医は、外傷のみならず、癌の手術を多く手がける。

 そして、時としてこのinoperable caseに出会う事がある。

 術前精査の段階で ”これは手術にならんな・・・” との結論に達するときがある。

 そんな時は、腫瘍内科の先生方に化学療法をしていただく事になる。

 一方で、”インオペかもしれないけど、なんとか治癒切除が出来るかもしれない” と判断し、かなり困難な手術になろうが、治癒切除を目指し、開腹手術する事もある。

 しかし、腹腔内を観察してみると。

 微細な播種(腹膜播種、お腹の中に小さな癌が沢山ある)が無数にある・・・。

 ・・・・・・・。

 または、腹腔内洗浄細胞診陽性・・・。


 そして、執刀医は手術場でこう発言する。

 ”インオペだな。このまま閉じよう。”

 助手の外科医、手洗いの看護師、麻酔科医、全員が重苦しいほどの沈黙。そして、閉腹が行われる。

 患者や家族には、治癒切除出来るかもしれないから手術を受けてくださいと提案して、この手術を行っているのだが・・・。

 手術ではとりきれない・・・。

 そう、インオペ。

 こんな時、患者とその家族の顔が脳裏に浮かぶ。

 ”先生、よろしくお願いします。先生を信じて、お任せしますので。どうぞ、よろしくお願いします。”

 しかし、ご期待に応える事は出来ず、ただ開腹し、そして閉腹する。

 後は、化学療法に期待するのみ。


 こんな時、外科医の我々は逃れようのない無力感に襲われる。

 どんなに ”世界最高の外科医集団だ!” と声高らかに働いていても・・・、治せない癌がある。

 そう、今後の医療の進歩に期待し、こつこつと今、出来る事をこなし続ける。

 これが、外科医の生き様である。


 研究者として働いていた頃は、新しい治療法を確立する為に情熱を傾け、日々、研究に没頭していた。

 今は、既存の医療を最高のレベルで提供し続ける日々。

 それは苦悩と喜び。

 可能ならば、研究者として、そして臨床家として、その両面を併せ持った人生を送りたいと願うが、今の日本では難しい。

 大学病院で働けば、その願いが叶えられよう。

 しかし、大切な家族を完全に犠牲にした人生になる。

 それが、今の日本である。