インセンティブのない日本の医療現場と日本の社会保障制度
12月14日、曇り
今日は少し温かい、朝は4℃あった。今の外気温は10.5℃。
風邪を引いた影響で激しい全身倦怠感と腰痛、肩こり。
熱はそれほど高く無いのに、身の置き所のない倦怠感が・・・。
さて、こうして日本で医者として働いているといろいろなことを考えてしまう。
まず、とある患者さんとの会話。
その患者さんは、ご夫婦で頑張って働き、低賃金に苦しみながらもなんとか自力で生活している。
患者さん ”先生、今日はお金がありません・・・。なので、お薬は結構です・・・。”
少ない生活費で病気の治療費のやりくりをなんとかしている。
薬代は2000円にも行かないだろうが、それでも、それを削らなければならない生活。栄養状態も良くは無い。
一方、ナマポ(生活保護=医療費自己負担一切なし)の患者。
私 ”最近、体重増えてませんか? 一回り大きくなったように思いますけど、体重測ってみましょうか? 中性脂肪の値も上がって来てますよ。”
ナマポ ”やっぱり分かる? なるべく食べへんようにしてるんやけどね、おいしいもん沢山あるからなー。中性脂肪が高いってことは高脂血症ってことやんな? それやったそのお薬もちょうだいよ。それと夜眠れへんから安定剤もちょうだい。”
・・・・・・・・・・・・・・、どうですか、皆さん。
次に、医者の時間外労働賃金。
アホほど安い基本給で数十時間の時間外労働を行ってやっとこさ年収が1000万円を超えるこの外科医って仕事。
ちなみに基本給は月30万円台である。
その時間外労働。
私はあまり多く無い。
若い先生は月に100時間とか120時間とか時間外労働をしてくれていて、いつも私たちを助けてくれている。緊急手術があっても、即座に駆けつけてくれて手術の段取りを助けてくれて助手をしてくれる。そして、術後も一緒に重症患者の治療に当たってくれる。
まあ、私も研修医時代、月150-200時間の時間外労働を毎月のようにしていた。そう、家には寝る為に帰るだけだった。そして、当時勤務していた病院は研修医に時間外労働の賃金は1円たりとも払ってくれなかった。
先日、septic shockの状態で緊急手術をした患者が術後、ICUに入り、バイタルが安定しないのでしばらく待機していた。深夜2時になりバイタルが安定したので帰宅したら、家に着いた瞬間にICUから電話がかかって来てそのまま”病院”にとんぼ返りしたりした。それでも時間外労働時間は100時間は超えないだろう。
それは術後に合併症を起こすことが極めて少ないからだ。
緊急手術の患者さんは別にして、予定手術の患者さんは術後、全身状態がビターッと安定してクリニカルパス通りに経過して順調に退院して行く。
なので、予定手術の術後の患者が合併症を起こして、夜間や休日などに再手術をしないといけないなんてことは滅多にない。年に1, 2回程度かな・・・。うーん、ゼロでは無いな・・・。
なので、予定の仕事が済むととっとと帰宅する。
よって、時間外労働時間はあまり増えていかない。
一方で、これはあくまでもたとえ話と思って聞いて欲しい。
術後合併症を起こしまくりの外科系医師がいたらどうなるか。
彼らは術後管理の為に夜遅くまで働き、病院に泊まり込み、数回の再手術を行い、そして時間外労働時間はどんどん増えていく。
そう、丁寧で確実な手術をする腕のいい外科医の給料は少なく、そして術後合併症を起こしまくりの外科系医師は膨大な時間外労働時間を行ってそれなりの給料を手にすることになる。
・・・・・・・・・・・・・・・、どうですか、皆さん。
ね、インセンティブなんかどこにもないでしょ。
ただ、単純に術後に合併症を起こしまくる医者を責める気にもならない。
それは彼らは他の病院では出来ないような、かなり重篤な患者の困難な手術を沢山、引き受けているんだから。
まあ、どんな社会にも不公平は存在する。
でも、その不公平を是正する方法はある訳で、それを実行できるような社会、組織にすることが重要なんだよね。
それがたとえ、”弱者切り捨て” であっても、本来守るべき弱者を守らなければならない。
そして、この国を支えるエリートをエリートとして扱わなければ、滅びるよ、日本は。
一億総中流なんてのは愚かな意識でしかない。
格差なんてあって当たり前だ。
そのことを国民の一人一人が認識するべきであり、今さえ良ければ良いとか、自分さえ良ければ良いとかそういった我欲がいかに罪深いかを思い知る必要がある。
今度の選挙も衆愚政治に染まりまくった選挙になるしかないのかと思うと、なんだかもう・・・・・。