ゴールデンウィークは緊急手術の嵐で
4月30日、とりあえず眠い。
今日は雨だったらしい。
昔、若い頃はもっと元気だったよな・・・。
3夜連続で徹夜で手術してももっと体調が良かったように思う。
でも、今は心身共に充実しているはず。
そう、充実しているはず。
昨夜、10時過ぎ。
iPhoneがけたたましく鳴った。
昔の黒電話の音だ。
そして、ディスプレーには勤務先の”OO病院”と表示されている。
案の定、当直の内科医からの緊急手術の依頼だった。
着信履歴をみてくれよ。
どうなんだよ、この人生・・・。
そして当直医に患者の病状を聞き、緊急手術が必要か否かを判断する。
当直医 ”内科の上級医の先生とも相談させていただいたのですが、内科で保存的に治療する前に外科の先生のご意見を伺うように言われまして”
私 ”そうですか。それで症状はいかがですか? 採血結果は? CTの所見は?”
当直医 ”これこれしかじかです。いかがでしょうか。こちらで診ておいてよろしいでしょうか?”
私 ”先生、これは手術だな。緊急手術だよ。今から行くから、手術場の看護師さんとICU入院の段取りをして。それと、麻酔科の先生にも伝えてよ。もちろん、救急外来が急がしすぎたら俺がついてから全部やるけど。できるかい?”
当直医 ”分かりました。すぐに手配しておきます。それ以外にしておく事はありますか?”
私 ”それで十分だけど、患者とその家族に病状を再度説明して今から外科医が来るからって伝えておいてよ。”
当直医 ”分かりました。よろしくお願いします。”
そして、車に乗り込み後輩の有能な外科医と、外科部長に緊急手術をする旨伝える。
ああ、どうなんだろうな。患者を直接診た訳でもないのに緊急手術を決めちゃって。
でもな、この歳になると病状や検査成績を聞けば、それが必要かどうかは分かる。
それよりも何よりも、うちの病院の内科上級医が外科の先生の意見も聞いて欲しいって言った時点で、緊急手術の必要性が極めて高いってことは分かってるんだ。
それぐらい、うちの内科医は凄い。
そして、病院についてスクラブに着替え、救急外来に向かう。
採血結果とCTをじっくりと見る。
そして、患者の診察と病歴の聴取を行う。
やはり、これは緊急手術だな。
そして、初診を診てくれた当直医に”後はやっておくから。ありがとう。”と言い、緊急手術の用意を行い、患者ならびにその家族に術前説明を行う。
そうこうしていると、駆けつけてくれた若き有能な外科医と百戦錬磨の外科部長が様子を見に来てくれた。
そして、麻酔科医が麻酔の説明をおこなう。
ここら辺の連携の良さ。
最高だ。
ぐだぐだ言うヤツはいない。
つべこべ、ああだこうだ言うヤツは一切ない。
全員がこの死にいく患者の命を救う為に一丸となって突き進む。
そこには理性があり勇気があり覚悟があり。
前向きであり、女々しく無く。
ああ、”女々しい”なんて差別用語を書くとまた怒られるか?????
そして深夜に手術を始め、予定通りに終えて、術後管理を行い、仮眠室に辿り着いたのが午前5時。
妻にショートメールを送る。
”今日は病院に泊まります。”
笑うしかないな。
だってさ、朝の5時だぜ。今から家に帰っても風呂に入ってそのまますぐに病院に行くしかないような時間だ。家に帰るわけねえだろ。
そう、こんな緊急手術の要請を受けて病院についたら最初に何をするか?
それは仮眠室の確保だ。
もしも仮眠室がいっぱいだったらソファーか床で寝るかな・・・、床でも眠れるさ、アスファルトよりはましだ。壁もあるし、屋根もあるしな・・・・・。なんて思いながら。
午前7時30分。
iPhoneのアラームが鳴る。
”???????????? ここはどこだ??? ・・・・・・・・、あ・・・、そうだ・・・、病院の仮眠室だ・・・。朝の回診に行かなくては・・・・・”
そして、今日もいつも通り朝から手術。
眠たいなんて言ってられない。
外科部長もとなりの仮眠室に泊まってそのまま働いてるしな。
そして夕方になり、仕事を大体済ませてオフィスに戻る。
ソファーに横になった。
気がついたら・・・・・・・。
これが普通なのか???
高度な医療を提供する我々、世界最高の外科医達が、こんな長時間勤務を行い、二束三文の給料を得て細々と生きている。
これが普通か???
ああ、普通さ。
だってここは日本。
あきれるほど手厚い、社会保障制度が整備された国、日本。
そのあきれるほど手厚い社会保障制度は我々、ぼろぞうきんのように働く医療従事者によって支えられている事は疑いの余地もなく、そしてそれをこの祖国日本の同朋達に伝えなければ気が済まない。
そんな日々が続く。
あんたの命は、あんたの家族の命は、そんなに安いのか???
自分の命を救う為なら、自分の家族の命を救う為なら、数百万円、数千万円でも払う!
そんな覚悟はないのか???
・・・・・・・、ないよな・・・。
平和ぼけしきった諸君には。
頼む。
世界を知ってくれ。
世界を知ってこい。
日本を飛び出し、諸外国でガチで生きてこい。
そうすれば分かるさ、今の日本の社会保障制度がいかに手厚いか。
そして、日本の医療従事者の扱いがいかにひどいか、そして彼ら彼女達がいかに献身的に働いているかを理解できるさ。
そう、一度、日本を出てみなよ。
そうでなければ、貴方は一生、平和ぼけした愚民のまま人生を終えることになる。
それはとても幸福な人生であり、とても罪深い人生であると私は考える。
それにしてもこのゴールデンウィーク。緊急手術が多い。
皆、疲弊している。
そして疲弊しているってことを自ら認める事なく、さらにその身に鞭を打ち働くのみ。
それが、日本古来の外科医の生きる道。