若返り

 4月16日、晴れ

 目を覚ます。

 それにしてもこのベッドのマットレスは固いなあ。

 掛け布団も小さくて身長182cmの私では足がはみ出るし・・・。



 オフィスのあるビルの1階まで降りてタイムカードの機械にICカードをかざす。

 ・・・・・、なんだか滑稽だ・・・。

 こんな生活にタイムカードが必要か?



 今、やるべき事が大量にある、やりたい事が大量にある。

 高校3年生の頃を思い出す。

 もう、のんびりとテレビドラマを見る時間はない。

 小説を読んだり、スマホで遊ぶなんて時間は当然ない。

 ただひたすら働き、医学書を読み、Pubmedや医中誌webで検索しまくり論文を読み漁る。

 そう、読み漁る時間を作る方法を得た今、ただひたすら前に進む。


 それにしてもここまで大きな期待とプレッシャーを感じる事が出来る環境がこれほど緊張感に満ち、そして嬉しいとは。

 久しぶりの感覚だ。


 空手道、柔道、剣道などの格闘技では強いプレッシャーを感じて腰が引けてしまっては絶対に勝てない、強くなれない。

 攻めの姿勢を崩さぬ覚悟、気合いが必要とされる。

 攻めると言っても、他人を攻撃すると言う意味ではない。

 自らに厳しく、自らを律し、自らを鍛える、それが攻めの姿勢。

 そう考えると、学生時代、空手道部で血と汗を流しながらぼろぼろになるまで練習し、試合に臨んでいた頃と同じ生き様か。


 なんだか、若返ったようだ。

 この3年間、ずいぶん俺も年を取ったなあなんて、すっとぼけた事を思っていたが、ただの平和ボケだったのかもしれない。

 私よりも一回り年上の上司が信じられないほどの仕事量をこなしているのを見ると、俺ってまだまだだね、これで終わってちゃダメだねと痛感する。


 死ぬまでにやらなければならない事、やりたい事がこんなにあると再び実感出来た事を大変嬉しく思う。

 修羅の道と言うには、まだ甘いが、それに近い道を行く覚悟がなければ、この生活は長くは続けられないな。


 それにしてもこの病院の若手外科医は優秀だ。

 現時点では未熟なのは当然ではあるが、おそらく私の前任地の病院の若手外科医が3年で経験することをここでは1年足らずで経験し、あっという間に外科医、医者として必要な能力を身につけてしまうだろう。

 そんな若者がこれからの日本の未来を支えてくれる。

 ゆとり世代の馬鹿どもなどではなく、鍛え抜かれた本当の精鋭・エリートとして。

 私はそんな彼ら、彼女達を指導するわけで・・・、って考えているとのんびりしてる時間はないなと思うわけです。