でこの割創、受傷後2日目

 2月14日、でこの割創、受傷後2日目

 さて、でこの割創。順調に治っております。

 まず、こちら今日の風呂上りの写真。
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 風呂で普通に髪を洗ったり、顔を洗うとパーミロールが取れてしまいました。

 でも、大丈夫。傷はすでに着いているので少々の外力では外れません。お湯をかけても大丈夫。

 そして、こちら。
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 再び傷に貼る為に切ったパーミロール。

 ごらんのように初日より大きめで創面を全て覆える大きさにしています。それと、角を丸く切っています。

 貼ってみました。
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 今日も傷の片側にまず貼って、さらに少々引っ張りつつ反対側に貼り付けます。

 どうです。ええ感じでしょ。

 あのぱっくり割れていた傷が2日目でこの状態です。


 さて、怪人さんからいただいたコメント。”こういうキズは、アメリカの医者はノリでくっつけます” に関する考察をさせていただきます。

 まず、この”ノリ”ですが、何種類かありますが最もメジャーなのが ”ダーマボンド” です。

 これはアロンアルファみたいな瞬間接着剤に似た物(似ているが違うもの)を傷の表面に塗って傷を被覆するためのものです。

 ちなみに、アメリカでは普通に通販で買えます。

 ペン型のものがこちら Dermabond Topical Skin Adhesive 2-Octyl Cyanoacrylate, High Viscosity ProPen 0.5ml。1本、18ドル。

 カートリッジのみのものがこちら Dermabond Topical Skin Adhesive .5ml (10 sealed vials)。10本で198ドル。

 どうです。

 まずね、高いでしょ。アメリカの病院はそのまま患者に請求すればよいので気にしないでしょうが。

 そして、この”ノリ”を今回の私の傷に使用するのは三流の医師のすることです。

 いや、アメリカの医師を三流って言うのはかわいそうなので二流と呼ばせてもらいましょう。

 その理由を細かく書くと、ブログ記事の字数制限に触れてしまうぐらいの文字数になるので簡単に書きましょう。

 実は私もこのダーマボンドを9年前に使ったことがあります。それは腹腔鏡下手術の時に出来る1cm程度の皮膚切開創を”真皮縫合した後に”皮膚に塗っていました。

 この真皮縫合をしてからというのが重要です。

 真皮縫合とこのノリ(皮膚表面接着剤)に関することが記載されているサイトがこちら 傷あとを目立ちにくくする治療法

 なぜ真皮縫合をしないといけないかというと、このノリは皮膚をひっぱって寄せる効果がほとんど無いからです。

 たとえば私の前額部の傷は放置すれば傷が広がる方向に力がかかり続けます。この傷に対して皮膚を覆うだけで傷を寄せることが出来ないノリを使うと傷が治るのが遅れ、さらに幅の広い傷跡(瘢痕)ができます。これは真皮をしっかりと接着させていないから真皮と真皮の間に隙間ができてそこに肉芽組織が生えてくることで発生します。

 さらに、このノリを塗るときに傷をしっかりと寄せておかないと、ノリが傷に入り込んで真皮と真皮の間につまってしまい傷が治るのが遅れ傷跡が残りやすくなります。

 参考までにこのダーマボンドの使用法を説明したビデオをご覧ください。


 まあ、使用方法を分かりやすく説明するためであろうと好意的に受け取りますが、このCG映像では傷が開いた状態でダーマボンドを塗っています。そう、やっちまっています。やっぱり三流だな、と思われても仕方がないでしょう。このCG映像を日本の外科医や形成外科医が見ると相当な不快感を感じます。

 それと、このノリもパーミロールもそうですが、汗をかいたり激しい動きをすると剥がれ落ちてしまいます。

 ダーマボンドはなるべく水で濡らさないようにしないといけませんが、パーミロールはかなり大きめに貼っておくことで水にぬれても大丈夫です。ただ私のように小さめのパーミロールを貼っていると風呂に入ったときに剥がれ落ちてしまいます。今日、少々大きめのパーミロールを貼ったのはこれが理由です。それと角を丸く切ったのは角が引っかかってはがれてしまうのを防ぐためです。芸が細かいでしょ。

 ここで、なぜ私が最初に小さめのパーミロールを貼っていたかをご説明しましょう。

 それはパーミロールの下に血がたまらないようにするためです。2月12日の記事を見ていただいたら分かりますが、傷の端がわずかに露出するように貼っています。ここから血が外に出るようにしていたのです。もっとも、圧迫止血を十分に行っていたのとパーミロールを傷を引っ張り合わせるように貼っていたので血は全く出てきませんでした。実際のところ、少々パーミロールの下に血がたまっても問題ありません。

 しかし、もしもダーマボンドを塗りたくった後で、傷から血が染み出てきたらダーマボンドが脱落するし傷も開いてしまいます。

 ダーマボンドを塗るメリットは以下のようなものです。
  皮膚を縫合した場合と比較すると、”麻酔が不要”、”抜糸が不要”、”通院が不要”、”縫合糸の跡が残らない”

 アメリカの医師がこのダーマボンドを選択する理由はあくまでも推論ですが、患者の経済的負担を軽減するためと保険会社からの評価を良くする為でしょう。なるべく少ない費用で治療をすることはアメリカでも重要です。とはいっても日本と比べると既報のようにとんでもなく高額ですが。

 しかし、治療そのものを考えた場合、ダーマボンドを選択することは三流の医師のすることです。いや、三流ってのは言い過ぎか・・・、何もしないよりははるかにマシだしな・・・。そう、この傷をイソジンなんかで消毒してガーゼを当てる医師がいたらその人は間違いなく三流です。

 ダーマボンドを塗っても途中ではがれてしまえば再び病院に行かなければなりませんし、傷は通常7日から10日で治癒するとはいえその後、皮膚の張力によって徐々に傷が広がっていきます (ダーマボンドは5日から10日で剥がれ落ちます)。なので、形成外科医は真皮縫合を吸収糸で行うのです。吸収糸はその種類や太さによって違いますが、1ヶ月以上その強度を保ち、そして徐々に吸収されて消失します。だから形成外科医の縫った傷は奇麗なのです。

 今回のパーミロールを使用した割創の治療法も完璧なものではありません。それは患者にそれなりの知識が必要だからです。はがれてしまうこともあるし、貼りなおすときにはちゃんと傷が寄るように貼らないといけません。ただ、ちゃんと理想どおりにパーミロールの治療が行えれば、ダーマボンドを使用するよりもはるかに早く綺麗に治ります。

 ここらへんの治療法の違いは、アメリカと日本の国民性の違いや医療事情にもよるのでしょう。

 ただ、日本の我々外科医の考え方、治療法のほうがはるかに緻密で洗練されていてより良いものであることを再認識していただければと思います。

 概してアメリカ人は細かいことは気にしないおおらかな国民です。一方、日本人はさまざまなことに対してより良いものを求め、それを医療にも求めています。そして、日本人である我々外科医も、自分たちの知識と技術を磨き、治療をよりよいものにして、世界最高の状態を維持しているわけです。だけど、アメリカと比べて診療報酬が5分の1以下ってのは無理があると思いませんか。

 アメリカは先進的な医療や移植の分野で世界をリードしています。それがなぜできるか? それは潤沢な研究費と診療報酬があるから出来ているのです。決して、研究者や医師の能力がとても優れているからではありません。金が無ければ、儲からなければそんなことはしませんよ、アメリカってのは。もちろん、すばらしい研究者や医師もいますけどね。でも、日本の研究者や医師に同じだけの資金が与えられれば、研究分野や先進医療の分野でもアメリカのそれをはるかに凌駕できると私は確信しています。

 まあ、無いものねだりをしているだけで、こんなことを書いても少々虚しくなるだけですけどね。

 やっぱりいつまでたっても日本の外科医や研究者は根性根性ど根性で生きていかねばならないのですかね。

 まさに、”押忍”の精神ですよ。

 学生時代、空手道部の後輩にこう檄を飛ばしていました。”気合いれんかーーー!!! ボケぇ!!!”ってね。

 私も新入生時代によく先輩から ”気合が足らんのじゃぁぁぁ!、気合じゃー!、根性じゃぁぁぁぁ!、はよぉ立てやぁ、こりゃぁぁぁぁ!” って言われてましたけどね。”だって、あんた今、俺のみぞおちに思いっきり前蹴り入れたじゃん・・・、肝臓が激しく揺れて立てるわけねだろうがよ!” なんて思ってませんでしたよ先輩。

 そんな我々、空手道部の道場には”鬼手仏心”と毛筆で書かれた大きな額が掲げられていた。