今週も同僚たちは夏休み、そして学生が働く

 8月13日、ミネソタ晴れ、曇り、雨

 暑い。

 今日はのんびりと出勤したまでは予定通りだった。しかし、朝、大ボスから携帯電話に電話がかかってきた。

 ”顕微鏡使ってる? 例の病理組織の検討、今日の夕方までにできる? それと、昨日の実験結果どう思う? 来週の実験計画を週末に考えようと思うから、データをまとめて分析して夕方までに送ってね”


 ・・・・・・・・、のんびりと好奇心が満たされるまで細胞の一個一個まで眺めて遊ぼうと思っていたのに・・・・・・。

 それと、昨日の実験の分析はまだ私の中では完了していなかったが、その時点での考えを伝えると、”私の考えと全く同じだ。ありがとう。” とのお返事。

 夕方までに、データ分析を終えるとなると、大急ぎで何十枚もの病理組織切片の観察と写真撮影を行い、そしてパソコンにデータを打ち込んでいかないといけない・・・・・・・・。

 そんなわけで、大量のプレパラートを脇に抱えてがしゃがしゃいわせながら、大ボスが用意してくれた顕微鏡のところまで行った。


 余談なんだけれど、大ボスは "Why don't you ・・・・・・・・" という話し方をよくする。渡米した当初はこの話し方を ”どうして・・・・・しないんだ?” と言う意味で受け取っていて少々不快だった。しかし実際のところ、この受け取り方は間違っていた。”Why don't you ・・・・・・・・・・・”は ”・・・・・・・してはどうだろう。” という提案、もしくは依頼である。これ以外にも、未だに時々、英語を間違って解釈することがある。聞き取れていても解釈を間違う・・・・・、まだまだ修行が足らんわな。


 さて、写真を撮ろう。

 ぱしゃ。

 パソコンに転送して画像を確認。

 ・・・・・・・・・・、あれ?

 はっきり言って使い物にならないぐらい汚い写真。フォーカスもあっていないし、ノイズもスゴイ。

 なんとかフォーカスを合わせ、至適なISOを探ろうと試行錯誤するもいっこうにきれいな写真が撮れない。

 悪戦苦闘していると、なんと昼になってしまった・・・・・。

 まずい・・・・・、朝は何の苦も無く約束した通り夕方には出来上がると思っていたが、ちょっと焦ってくる。

 もう、この顕微鏡を使うのはあきらめて愛用している顕微鏡を使うことにした。

 病理組織切片はとても薄い。なので、デジカメの小さな液晶モニターを見ながらフォーカスを合わせるのは非常に難しい。しかも初めて使う顕微鏡とデジカメの組み合わせでは・・・・・。しかし、この愛機はデスクトップパソコンで画像をみならがフォーカスを合わせられるのできれいな写真が撮れる。それと、画像データは直接パソコンに保存でき、フォルダやファイル名も分かりやすいように最初から整理できる。

 ただ、日本にいたころ使っていた顕微鏡システムのほうが高解像度できれいな写真が取れていた。でもあれはあれで問題があった、ホワイトバランスがうまく調節できず変な色合いの写真になってしまうことが多かった。

 さて、これでもかと言うほどの写真を撮り(300枚近かった)、オフィスに戻って分析開始。

 こんな時も、デュアルディスプレーの環境は大いに助けとなる。右の画面で画像を見ながら、左の画面に立ち上げているExcelにデータを打っていく。

 そんなこんなでトイレに行くのも忘れて夕方まで作業を続け、誰もいなくなった部屋でひたすら働いていたら・・・・・・、大ボスから電話がかかってきた。

 ”できそう? それと、学生のBのところに行って話を聞いてデータを入手してメールで送ってほしい。非常に興味深いことをしてもらっているんだ、是非それに関しても意見を聞かせてくれ。ぶらぶらぶらぶらぶらぶら・・・・・・・・・・。”

 しゃべるしゃべる。今日は休暇を取っているはずの大ボス。どうやら自宅で働いているようだった。ちなみに、あのぼんくらの中ボスはこのくそ忙しいなか、約2週間のバケーションをとって休暇中である。もうすでに私の中では彼はP.I.でもなんでもない。ただのうっとおしいおっさんである。いやそれどころか、虎の威を借る狐、狡猾な詐欺師とでも表現した方が適切か。もしも、あなたの周りで印度人が雄弁に何かを語っていたら、バカ正直な日本人はこの人はすごいなーなんて思うかもしれない。しかし、だまされてはいけない、嘘を平気で語る生まれつきの詐欺師ではないかとまず疑った方が身の為である。

 さて、もうオフィスには誰もいない。そして、その学生を探してうろうろすると、中堅スタッフのデスクとパソコンで膨大なデータをまとめてエクセルシートにして、さらに統計ソフトを使って分析をしていた・・・・・・・。彼も一人ぽっちだった。

 ”大ボスから電話がかかってきて、君のところに行く、そして話をして、データを入手せよ、と言われたから来てみたんだけど、なんだかおもしろそうなことをしているね。” と言うと、喜んで説明してくれた。

 ”あと少しで完成しますが、もし今すぐ必要ならこのまま送信しましょうか?” と聞かれたので、私もあと1,2時間は自分の仕事があるから完成してから送ってよと答えて、Good job! You are awesome. と激励した。

 しかしなー、あの膨大なデータをちゃんと管理して、大ボスが見やすいようにきれいなグラフまで作って・・・・・、大学生の仕事とは思えないな。たぶん、今働いている中堅のスタッフもあんなことはできないだろうな。あのぼんくらでえらそうなおばちゃんの代わりに働いてよって言いたかったが、余計なもめ事を起こすのは嫌なので言わなかった。

 不思議なのだけれど、私の職場ではアメリカ人の若者たちの優秀さが目立ち、そして中堅の人たちのふがいなさを強く感じる。当然、中堅の人の中にも優秀な人はいるけれど、二割ぐらいかな。それ以外は、なんのイノベーションもできない、改善もできないような無能で高慢な人が多い。口先だけで生きている奴が多すぎる。

 研究は、仮説の構築 > 実験計画の作成 > 実験の遂行 > データの収集 > データの分析 > 仮説の検討、の繰り返しである。その工程のうち一つでも不十分であればうまくいかない。この全てをそつなくこなせる人はめったにいない。私の周辺には仮説ばかり考えている愚か者の印度人がうろうろしている。仮説の構築以降の工程が全くできない彼らは、ただのほら吹きでしかない。そのことに未だに気がつかず、仮説を構築し提案することが仕事の全てだと思い込んでいる。

 先日、若い印度人がある仮説を考え、大ボスにその仮説を熱く語っていた。そして過去のデータを見返せばその仮説の検証ができると自信満々で話をし、大ボスもその仕事に取り掛かることを許可した。しかし、いつまでたっても分析結果を公表しない。私も非常に興味があったのでどうなったか尋ねてみると、”十分なデータがなくてやめました” と言う・・・・・・・。なんだよそれ。

 先日、ネットサーフィンをしていたら印度で研修を受けているIT関連の人のコラムを見つけて読んでいた。どうやら、私が身近で経験しているこの印度人たちの振る舞い、考え方。これは、何も彼らに限ったことではなく、印度人全般に言えることらしい。彼らは誰かに助けてもらう事を前提に仕事をしているのだ。そりゃ、当然、一人っきりで出来る仕事ってのはあまりないけれど、まったく技術も知識もないのに、ほらを吹く。そしてそのホラに興味を持った人が助けに入り、ただのホラなのか価値のあるものなのかを彼らが検討する。そんな社会のようだ。

 ただ、必ずしも悪い点ばかりではない。私なんかはいろいろな仮説が頭に浮かぶが、それが実証可能かどうかを必ず考える。そして、現状だと実証が困難だと判断すると、誰にも明かさず自分の中にしまいこんでしまうことが多い。しかし、彼らは実証可能かどうかなんて考えもせずに、いろんな人に話して回る。すると、興味を持つ人が現れて実証に向けて話が進むことがごくまれだがある。多くの場合は、とんでもないはた迷惑に終わるのだが、それでも彼らの恐いもの知らずの仮説ってのは結構面白いのだった。

 まあ、いろんな奴がいるよ、この地球。そのことが分かっただけでもアメリカで働いている価値があるって思う今日この頃です。

 明日は土曜日。みなさん、Have a nice weekend!!