高齢者医療を考える

 1月21日、曇りのち雨

 今朝、外気温0℃。

 曇り空の中、ロードバイクにまたがり激坂を下る。

 ロングスリーブジャージの上にウインドブレークジャージを着ているので寒くは無い。


 そして、手術をして帰宅。

 夜道で雨。向かい風。冬の雨。

 コンディション最悪。

 多分普通の人には拷問なんだろうが、自転車馬鹿にはたまらぬ快感の時。

 冬の雨に打たれ向かい風のなか突き進む。

 最高だぜ。生きてるって最高だぜ。

 ただね、怖いよ。

 後方から来る自動車にどれだけ視認してもらえているかがとても気になる。

 そこで、今日は赤色のテールライトを3個つけて走っていた。

 一つはヘルメット、一つはバックパック、一つはシートステー。

 どれもかなり明るい赤色灯なので、これで ”自転車に気がつきませんでした。だからひき殺してしまいました” とは言わせませんぜ! と確信が持てるほど、光ってる。

 それと、ウインドブレークジャージの上に着ていたレインウェアも反射材がついているし、手袋やバックパックカバー、シューズにも反射材がついているので、視認性は良好です。

 でも、重要なのは道路交通法を守り、路駐している車を避けて車道にはみ出す時には必ず手信号。

 でも、怖いよね・・・。

 しかし、今日も神戸の自動車ドライバーの方々、素敵でした。身の危険を感じるような追い越しをされる事が全くありませんでした。



 さて、タイトルの件。

 先日、麻生副総理が、こんなことを言ったらしい。

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 麻生太郎副総理兼財務相は21日開かれた政府の社会保障制度改革国民会議で、余命わずかな高齢者など終末期の高額医療費に関連し、「死にたいと思っても生きられる。政府の金で(高額医療を)やっていると思うと寝覚めが悪い。さっさと死ねるようにしてもらうなど、いろいろと考えないと解決しない」と持論を展開した。

 また、「月に一千数百万円かかるという現実を厚生労働省は一番よく知っている」とも述べ、財政負担が重い現実を指摘した。
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 この記事だけを読むと、ああ言っちまったな麻生さん・・・。って思うが、話の流れを聞けばマスゴミのあくどさを感じる記事らしい。が、この会議の映像がwebで見られないのでどうも判断が出来ない。

 だた、現在の高齢者医療には苦言を呈したくなることが外科医として働いていても多々ある。


 たとえば、数ヶ月前にとある致命的な病気であっという間にとある入院患者さんが亡くなった。

 外科や内科に入院中の患者さんではなかったが、もうすこしで100歳になろうという方だった。

 担当医は患者の急変を見逃さず、すぐに腹部CTを撮影し内科医に相談した。

 その優秀な内科医はそのCTの画像を完璧に読影し、外科医である私に相談の電話を入れた。

 そして、私もすぐにそのCTをみて、患者の元に駆けつけ診察し採血結果を見て判断し、ご家族に病状説明を行い、手術による救命は極めて困難であると伝え、ご家族の同意のもと自然に看取る事となった。

 ここまでは問題は全くなかった。

 しかし、死亡退院する患者さんの家族から出た一言。

 ”ずっと入院していたのにこんな死に方をするなんて、ちゃんと先生はみてくれていたのか!”

 あれほど詳しく説明したのに、家族は退院間際に吐き捨てるように看護師にこう言ったそうな。言ったそうなというのは看護師さんが看護記録に記載しているのを読んだからである。担当科の医師、内科医、そして私が電光石火の勢いで迅速に急変した超高齢の患者に対応し、そしてその家族に時間をかけて慎重に丁寧に詳しく説明したが、それでも不十分だったってことになる。

 親を亡くした子の気持ちを理解せぬ訳ではないが、本来の美しき日本人がする発言ではない。

 と思いつつ、我々医者には言いにくい事も患者やその家族は看護婦さんに言う。そしてその暴言・・・、苦悩を看護師さんは日々、受け止めてくれているんだなと思うと非常に申し訳なく思う。


 ヒトは必ず死ぬ存在であり、特に高齢者は突然の病気であっという間に死んでしまう事が若い人とくらべて多い。そのことを理解せず知りもしないヒトが意外なほどに多い。

 そして、まるで現代の医療は万能で助けてもらえて当たり前、って思っているヒトもとても多い。

 人間の体はそれほど単純じゃないんだよ。


 そして、我々外科医が手術を行う患者の年齢層も私が外科医になった頃とくらべて10歳ぐらい高齢になった。

 一昔前、75歳を超えているヒトに癌の手術を積極的にはしていなかった。

 しかし、医療が高度に発達した今、75歳を超えていても麻酔科や外科医、看護師達の技量のおかげで安全に手術を受け順調に退院して行く人が増えている。それと各種薬剤の進歩も高齢者医療をより確かなものにしてくれているって事も言わないといけないな。


 この癌の手術を乗り切れば90歳ぐらいまでは生きられそうだなっておもう事が良くある。


 たとえば85歳の人の癌を切除する手術をしたとする。

 腎機能も弱り、呼吸機能、心機能も弱っている。

 術中から利尿剤を必要としたり昇圧薬を使ったりさまざまな手を尽くして手術を乗り切り、ICUで管理する。

 そして、各種の薬剤を用いて術後を乗り切り退院して行くが、一部の患者の家族は我々医療者側の苦悩も全く知る事なく理解しようとする事もなく、順調に退院して当たり前と思っている。

 そして、無事退院した合併症(術前から各臓器の機能が弱りまくっている)だらけの超高齢者は多額の税金によって運営されている社会保障制度にどっぷりと依存して他の(合併症を持たず健康にくらす)高齢者と比較して生産性の低い余生を送るのである。

 生産性の低い余生と書くのには非常に勇気がいるがあえて書かねばならない。

 かつての日本ならば、生き字引のような高齢者は子孫にその英知を伝え、倫理観、死生観を伝える事が出来たが、今の超高齢者の少なからぬ一部の人は退院してもそのまんま施設に入所し子孫と接する事は滅多に無いのである。

 そしてまともな倫理観、死生観を得る事が出来なかった子孫がこの日本国を滅亡へと誘うのである。

 この高度急性期医療を提供するべき病院のナースステーションに、認知症がありほぼ全介護の超高齢者の方々が椅子に座り、看護師さんがつきっきりで世話をしているのをみるととても心が和むのだが、その一方でこれで良いのだろうか・・・、と強い不安を感じる日々である。

 子や孫達は、自分の生活を最優先し、いや最優先しなければ生きて行けないような精神構造と社会状況にあるか・・・・・。

 今のあまりにも手厚い日本の社会保障制度において、超高齢の親が病気になって入院しても鼻くそほどの出費しかからず、子や孫をあげて医療費を捻出し超高齢の親に医療を受けさせてあげようなんて世の中ではなくなった。そのくせ、高齢者医療に国として多額の出費がかかるのは医療費(診療報酬)が高いからだなんてふざけた持論を展開する社会経済学者がいるから困ったもんだ。だったらさ、東南アジアとかインドとかアメリカに移住してみろよ。

 東南アジアやインドに行けば、分かるよ。いかに社会保障制度がずさんか、そして医療の質が低いか。

 アメリカに住んでみたら分かるよ。いかに普段払う医療保険料が高いか。そして、医療を受けた場合、目の飛び出るような自己負担金が発生し、自己破産することになるかを。



 さて、とりあえず、高齢者の自己負担をとっとと2割に戻そうよ。

 これは決して高齢者切り捨てじゃない。

 その子や孫の死生観、倫理観をまともなものに戻す為の第一歩だよ。


 え? そんな事をしたら選挙で勝てない?

 だからさ、多額の税金を納め健康に勤めている若い世代の皆さん。選挙に行こうよ。




 こんな記事を書いたが、本当にこんな事を書くべきなのか未だに悩む。

 介護が必要な高齢者を親に持ち、その介護のすべてを自分たちでしている息子や娘、嫁、孫、親類もいるわけだよな。

 そんな気高き人達も批判しているように受け取られかねぬかなと思うと、このような記事は書くべきではないかともと思う。


 以上、長々と書いたが、最後に何が言いたいか要約しよう。

 日本で病気になりそして日本の世界最高の医療によって救命され得る超高齢者は、東南アジアやインドや中国などではその医療の質の低さから、助かる事無く死んでしまう。

 一方で、日本と同じく高度な医療を提供する事が出来るアメリカでは、同様の超高齢者達にはその医療費の高さから家族は治療を断念する事が少なからぬ頻度で起きている。

 たとえば、超高齢の親御さんの治療に自己負担金で1000万円以上かかりますけどいいですか? それとも自然に見守りますか? と、もし子である貴方が問われたら、どうしますか?

 そして、アメリカで受けたとしたら総額(診療報酬)で数千万円(場合によっては1億円を超える)もかかるような医療が日本ではその1割程度の診療報酬しか医療機関には入らず、しかもその大半が税金でまかなわれ、そして数万円の自己負担で受けられるって事実を貴方は知ってますか? 生保(生活保護患者)だったら自己負担金、0円だし!!!

 その結果、日本はどうなりますか?


 以上の事をふまえると、麻生さんの言いたい事は痛いほど理解できますよね。


 親や子の命を救う為なら、その医療費に数百万円だろうが、数千万円だろうが、国に依存せずこの身をかけて自分の命をかけてでも働き、救ってみせる! って気概や覚悟なんか今の日本人には無いんだろう。いや、必要ないんだよな。