送別会

 3月19日、晴れ

 なんだか久しぶりに天気がよい。

 今日は仕事が終わった後、送別会があるので電車通勤しようと思って早起きしたのだが、あまりにも天気がよくて気がついたらロードバイクにまたがっていた。

 早起きしたのに、ロードバイクの整備を朝からやったので職場に着いたのは予定時刻ぴったりだった。


 向かい風の中走る。

 やっぱりのんびりは走れない。

 気がつけば直線の平坦路を心拍数170bpmで走っていた。

 向かい風の中、突き進む。

 そこにあるのは自然と己の体。

 自分が生きている事を感じられるとき。

 アレルゲンの花粉をアホほど吸気し、アナフィラキシーになるんちゃうかと思いつつ走った。


 そして、仕事を終えて、そのまま普段着に着替えて送別会に参加すれば良いのに、病院の窓から外を見ていると、気がつけばサイクルジャージに身を包み、激坂を登っていた。

 Garmin Edge 705の電源を朝切り忘れていたのでバッテリーが消耗し、帰路の途中で電池切れになった。

 激坂を何km/hで登っているのかも分からない、心拍数がいくらなのかも分からない。

 でも、体調は良い。

 己の本能の赴くまま全身に力を込めてペダリングする。


 家に着き、汗が引かぬままシャワーを浴びて、普通の服に着替えて、電車に乗り、送別会の会場へと向かった。



 今月は毎週のように送別会がある。

 この歳になると、この職場を旅立つ人の90%以上が年下である。

 若い彼ら、彼女達の旅立ちに乾杯しつつ、未来の話、彼ら彼女達の夢を聞く。

 幸いな事に、全員が新たな旅立ちに少々の恐れを感じつつも希望を胸に抱いて前に一歩踏み出そうとしていた。

 この職場に、保守的で負け犬根性丸出しのヤツは一人としていない。

 傷つくのも恐れずに前に進む。


 よく送別の言葉で ”皆さんは若くてまだまだこれから長い人生を送る訳で、悔いの無いように生きていってください” なんて言うが、私はそうは思わない。

 なあ、俺たちは人間である前にヒトなんだよ。

 そう、有機体、生物なんだよ。

 いつ死んだっておかしく無い。

 今日か、明日か、いつなのか。

 長い人生があるなんて思うのは、平和ぼけした人間の発想だと思う。

 まあ、長い人生があるようにと祈るってのなら話は別だけど。


 一緒に良い仕事をする事が出来ていた他科の先生も転勤する事になった。

 ”おいおい、転勤しちゃうのかよ! まだまだこれから一緒にする事、沢山あっただろ!!!”

 って、叫びたくもなる。

 でも、あえて口にはしない。

 だって、それが君自身の人生だからね。

 君たちの旅立ちに、乾杯。

 栄光あれ。

 そして、今を生きてくれ。